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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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教会での出会い③

「本日は教会へどのようなご用向きで?」

「教会が改装されたと聞いてランポール嬢と見に来ました」

「そうでしたか、私共も見ましたが大変便利になりましたな!」


 少女達の不毛な争いをレイヴスが止めるようにして入ったのは、野良の子猫を相手にしているかのようにニコニコしっぱなしの余裕のクリスティアと違いイライラした様子のリリアルが怒鳴り散らさないか心配になったからだろう。

 父親に間に入られたことで少し冷静になったのか、リリアルはクリスティアから視線を逸らしてユーリの姿を見ると訝しんだ様子でその胸を見つめる。


「そのブローチ……見かけないデザインですけれど、どちらの作品ですか?」

「えっと、これは……預かり物で……」

「そういえばユーリ様。つい先日、王妃様と一緒に演劇を見に行かれたそうですね。リリアル嬢は見られましたか?今、大変人気な作品だそうですわ」

「……いいえ、見ておりません」


 クリスティアがついさっき付けてくれたブローチなのでどちらの作品かと聞かれても分からない。

 ユーリが持つにしては作りが雑なのでリリアルの目に入ったのだろう。

 高貴なる身分の者には似合わないとでも言うような軽蔑の眼差しを向けられたブローチに、ユーリが不愉快な気持ちになっていれば話を逸らすようにクリスティアが会話に割って入る。


 脚本が変わったと先程クリスティアが言っていたのでユーリが見たものとは劇の内容が違っているはずなのだが……何故見たと言い出したのか分からないがリリアルは会話の邪魔をされてムッと眉を顰めている。


「……あの王子様、よろしければ一緒に庭園の観賞などいかがでしょう?」

「おぉ!是非お願いしますユーリ王子!」

「いえ、申し訳ないけどこれから……」

「まぁ!良いではありませんかユーリ様。わたくしは今からミサに参加いたしますからお待たせしてしまいますし……どうぞわたくしのことはお気になさらずにお二人で散策なさって」

「えっ……?」


 この後は王妃とランポール夫人と昼食の約束をしているので王宮へと戻るはずなのだが、どういうつもりなのか。

 急にクリスティアに背中を押されたユーリは慌てる。


 おかしい、クリスティアの二週間に一度のミサへの参加はまだのはずだし、ランポール家のような高位貴族は基本的に教会の者を邸に呼び寄せることが多いので教会で直接ミサに参加することはない。

 教会に来たついでに受けようと思ったにしても次に予定の入っている今日をわざわざ選ぶことはないだろうし、それに馬車で教会に来る道すがら王妃との昼食を楽しみにしていると言っていたのでミサに参加するのなら予めユーリに言っていたはずだ。

 何故急に参加すると言い出したのか分からないが、クリスティアが参加するのならリリアルと散策するよりユーリも参加したほうがマシだ。


「ちょ、クリスティー!」

「ユーリ様、わたくし以外とのご令嬢との交流を持つ良い機会ですわ。昼食のお約束にはまだ時間がありますし問題はございません」

「それにしたって……!」


 それにしたってリリアル・ウエルデはない!という言葉を本人の前で言うわけにはいかずユーリは言葉を飲み込む。


 リリアルの我が儘な振る舞いは社交界では大変有名だし、ユーリが居るパーティーではまるで自分が婚約者にでもなったかのような振る舞いをすることだってあるのだ。

 二人きりの散策なんてそんなリリアルの振る舞いを助長させるようなもの、全然大丈夫じゃないとユーリは目で訴えるが……クリスティアはニッコリと笑んだまま自分の意思を曲げるつもりのない。


 明らかにこの場から離れるための生け贄なのだ、ユーリを使ってなにかしらの時間を稼ぐための人身御供なのだとその笑みが訴えている。

 自分の訴えよりも遙かに強く、折れる気のないクリスティアの訴えにユーリは溜息を吐く。


「では、ウエルデ嬢。少しご一緒に……」

「光栄ですわ!」

「私は馬車で待っているよリリアル」

「あぁ、ユーリ様お待ちになって……ブローチが少し曲がっております。散策が終わりましたらどうぞ馬車でお待ち下さい」


 仕方なく差し出した腕にリリアルが飛びつく。

 ユーリは「少し」の言葉に力を込めたのだがその思いは伝わっていないのだろう。


 太陽が真上に来るまで引っ張られるようにして庭園を大きくぐるりと一周させられたユーリがリリアルを馬車へと送り、気疲れしたその体を自身の馬車の中、背もたれへと預ければなにをしていたのかクリスティアが満足そうな表情を浮かべ戻ってくる。

 そんな彼女をユーリは恨めしそうに見つめる。


「僕を生け贄に差し出してなにしていたのクリスティー?」

「生け贄だなんて……ユーリ様、リリアル嬢は良い反面教師となったでしょう?」


 確かにそうだけれども……。

 自慢話ばかりで耳も気も疲れたと肩を落としたユーリの昼食はそれはそれは小食なものとなり、王妃を心配させるのだった。

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