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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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教会での出会い②

「酷い状態です。年齢より幼く見えるのはまともな食事が出来ていないせいでしょう。最低限に生かされているだけです」

「呆れたこと……思っていたよりも状態が酷いわ。早急に助け出さなければ……あの子は今どちらに?」

「助祭に案内させミサを受けさせています。子供達には最後にお菓子を渡しているので少しは足しになるでしょうから……終われば彼らの元へと案内するように伝えてます」

「あの者達の元へと帰さなければならないことが腹立たしいですわね」

「今暫くの辛抱です。彼にとっても、君にとっても……」

「えぇ、そうですわね。エヴァン様、ご面倒でなければ帰りしなに中央対人警察署に居るヘイリー・バントリという者を訪ねて面談のご様子をお伝えしてもらってもよろしいでしょうか?わたくしの伯父様で人を向かわせるという話はしておりますので」

「構いませんよ」

「侍女に頼む予定でしたが、直接見た者から伝えられるほうが伯父様の胸を打つでしょう。感謝いたします、後日お礼に伺いますわ」

「いいえいいえ、君が楽しんでいるのならばそれで」


 そう言うとエヴァンはタブレットを手に足早に去って行く。

 その後ろ姿を見送りながら二人の間だけで交わされたあまり愉快とは言えない話の内容にユーリは眉を顰める。


「クリスティー、一体なにをしてるの?あれにはなにが映ってたの?」

「どうぞご安心なさってユーリ様、悪いことはなにもしておりません。教会ですから神に誓いますわ」


 エヴァンが救われなかったように、クリスティアだって神という存在を信じていないくせにその神に誓いを立てて意味があるのだろうか……。

 都合良く利用される神という存在はそれ以上、このことを聞くことをクリスティアが拒絶していることを表していて……ユーリは口を噤むしかない。


 こういうとき、クリスティアがなにかを隠しているとき、ユーリはいつもそれが危険なことではないのかと不安になり、なにを隠しているのかと聞き出そうとするのだが彼女がその胸の内を口に出したことは一度も無い。

 危ないことはしないで欲しいと幾度となく止めることも頼むこともあったのだが、彼女が止めたことは一度もなかったし……それを止めることは逆に咎められていることのような気がしていまい、ユーリはいつも強く出られないのだ。


 彼女の真剣な眼差しを見ているとそれに従わなければならないような……いつもそんな気分にさせられる。


「それよりユーリ様こちらを」

「……これは?」


 今までと同じようにクリスティアは今回のことも絶対に話さないことをユーリはよく知っているので聞き出すことを諦めれば、人の心配などどこ吹く風でクリスティアから青色の綺麗なブローチを胸に付けられる。


「これを暫く……そうですわね、王妃様主催の水の庭園でのパーティーまで何処に行くにも必ず身に付けておいでください。わたくしが特注したブローチですわ。誰かにこれをどうしたのかと聞かれたらわたくしから貰ったとは言わず預かったとお伝え下さい」

「……いいけど……なにか危険になるようなことをしてるんじゃないよね?」

「えぇ、勿論。あぁ、そういえば……ユーリ様が王妃様と見られた演劇、脚本が変わったそうですわ」

「そうなの?」


 軽い調子で危険ではないと口にするクリスティアのそれが本当か嘘かは分からない。

 気休め程度の安心を得て、ユーリが胸に付けられたブローチを見る。


 どうして今、演劇の話になったのかは何一つ意味は分からないが、クリスティアに呆れられエヴァンに諭されたあの演劇をユーリが見に行くことはもうないだろう。


 どんな意図を持って身に付けられたのか贈り物ではないブローチに触れてみれば、足音と共に媚びを売るようなワントーン上がった鼻につく声が響く。


「これはこれは!ユーリ王子ではございませんか!このような場所で会うとは!」

「……ウエルデ伯爵」

「ご挨拶申し上げます、王子様」


 溜息交じりにその声の主へとユーリが視線を向ければレイヴス・ウエルデ伯爵が娘のリリアル・ウエルデを引き連れて現れる。

 レイヴスは典型的な貴族派の一族で、権威力が強く傲慢な性格で、度々平民との間でトラブルを起こしてはラビュント紙を賑わせている人物だ。

 しかもそのどれも証拠がないか早急な示談で不起訴になるを繰り返している。


 亡きキュワール侯爵の嫡男の後見人を息子に任せてからはその振る舞いは更に傲慢となり目に余るものがあると宰相であるウエスト卿がぶちぶちと文句を溢していた。


「ウエルデ嬢も、本当に偶然ですね」

「親しくリリアルとお呼び下さい王子様。ご令嬢もご一緒だったのですね」

「まぁ、ではわたくしのことはどうぞランポールとお呼びくださいリリアル嬢」

「……え、えぇ……ランポール嬢」


 リリアルに熱の籠もった眼差しと媚びるような声音で王子様と呼ばれる度に嫌悪感で鳥肌が立つ。


 リリアルの名をこれから先も呼ぶつもりはないのでユーリが曖昧に笑んでいれば、その言葉をクリスティアが受け取りその名を呼ぶ。

 何故お前が名を呼ぶのかとリリアルはその笑顔で訴えているがクリスティアはどこ吹く風で……逆に名を許さず姓を呼ぶようにと言われたことでリリアルの頬が引き攣っている。


 辺りの温度が5度ほど下がりユーリは無意識に腕を擦る。


 女性同士の争いは苦手だ。

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