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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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ユーリ・クインの憂鬱⑤

「ユーリ様、この度の王妃様が主催なさるパーティーでもし気に入った子がいなければ滞りなくわたくしと婚約いたしましょう」

「……でも、僕は君との婚約を将来嫌になるかもしれないでしょ?そうしたら君を傷つけてしまう」

「ではお約束いたしましょう。もし将来ユーリ様がわたくしとの婚約を嫌だと思ったり、誰かに恋をしたりしたのならばこの婚約を破棄いたしますわ。ただし、国の為にお相手のことは見定めさせていただきますけれども……」


 もしそれが国のためにならない相手なのだとしたら……別の形で側に居てもらうのも手だろう。


 だがそんなことを言えば両親の仲睦まじさを見ているユーリはまた思い悩むだろうから、それはそうなったときに伝えようと……幼なじみを大切だと思い、悩んで気遣ってくれているその優しさにクリスティアは微笑む。

 その微笑みを見つめて……恋という気持ちとは無縁だからこそこの婚約にも納得出来ているクリスティアに、ユーリはなんだか少し傷ついたような気持ちで俯く。


「僕に出来なくても……君に好きな相手が出来るかもしれないでしょ?」


 呟くようい言われたそれはクリスティアにとっては思いがけない言葉だったのかもしれない。

 ユーリが思うようにクリスティアの心の中で恋や愛という気持ちは全くの無縁であると思っていたからだ。


(誰かを恋、慕う気持ち……)


 事件を解決するときに感じる胸の高鳴りとは違う気持ち……。


「……でしたらお互いに、誰か想う相手が出来たのならば破棄いたしましょう」


 そんな気持ちは全て前世に置いてきたのかもしれない。


 クリスティアの脳内を掠めた本のページを捲る紙の擦れる音と柔らかい声、ベッドサイドに置かれた花の香り……それらを思い出しながら自分にそんな相手が出来るとは到底思えないとは思いつつも、悩むユーリのためにクリスティアは頷く。


「今、無理に決める必要はございませんわ。まずは色々なお相手のことを面倒だと避けるのではなくお話しをしてみて、ゆっくりと考えられてください」

「……うん」

「ではもしお二人の婚約が決まったときには私が特別な契約紙を製作いたしましょう。今の約束が守られるように……」


 小指を差し出したクリスティアに戸惑いながらもユーリが自身の小指を絡めたところで、エヴァンが幼いその二人の小さな手の上へと自身の掌を重ねて覆う。


「ユーリ様、あまり悩みすぎずに……婚約に際してはわたくしにも利点がありますから」

「利点?」

「ユーリ様の婚約者という立場はラビュリントス王国で起きる事件の数々に強制的に介入できる素晴らしい特権となるでしょう?わたくしの灰色の脳細胞も喜ぶというものです」

「一気に不安になった!」

「あははっ!」


 それが一番の目的ではないのかというくらい満面の笑みを浮かべてみせるクリスティアにユーリが叫ぶ。


 クリスティアの事件への介入は土足で他人の家に上がり込むようなものだ。

 そんな特権を与えてはユーリへの非難も必至だろう。


 今でさえユーリはクリスティアのために何度も頭をさげてきているというのにこの先も、変わらずクリスティアのために頭を下げて回らなければならない自分の姿を鮮明に思い浮かべたユーリの心からの叫びを、エヴァンがお腹を抱えて笑う声が掻き消していった。

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