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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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ユーリ・クインの憂鬱④

「ねぇ、そうなると僕が気に入る子が居なければクリスティーがそのまま婚約者として選ばれるってことだよね?君はそれでいいの?」

「特に嫌だと思うことはございません」


 この先、自分が気に入るご令嬢が見付かるとは到底思えずもじもじと手遊びをしながら問うユーリの様子にクリスティアは訝しむ。

 家格やユーリの幼なじみとしてそうなることは察していたし、ユーリですらそうなることを疑っていないようだったというのに……。


 選択肢があるとなると浮ついた気持ちになるのかしらとクリスティアは小首を傾げる。


「……でもさ……こういうのってやっぱり……よくないっていうか……」

「よくない……とは?王族であり貴族である以上、避けては通れぬことだと思うのですが……ユーリ様、一体なにを参考にそのようなことを思ったのですか?」


 本当にただ嫌だという感情がないクリスティアは同時に好きだという感情もない。

 それにがっくりと項垂れたユーリはごにょごにょと言葉を濁しながらも、自分優先で婚約者を決めることに否定的な様子。


 そんな様子に少し呆れたというか……クリスティアは厳しい口調で、幼なじみではなく地位のある者を諫める立場の者としての声音を出せば、それにビクッとユーリは肩を揺らす。


「母上と今、人気の演劇を見に行って……」

「演劇ですか?」

「今、人気の劇といえば……確か貴族のご令嬢と下人の禁断の恋物語でしたよね?」


 貴族から平民まで幅広く楽しまれているその作品は古典的なラブロマンス。

 エヴァンも噂程度にしか知らないのだが、子供に見せるには嫉妬や陰謀渦巻くやや大人向けの内容の物語だったはず。


「劇では結婚というものはお互いが恋をして愛し合わなければと言っていたから……僕だけが相手を決めてその人の気持ちを無視することは悪い奴のすることでしょ?だったら婚約なんて誰とも結ばないほうが……」


 事実、劇ではご令嬢に恋する悪役が出て来て最後には倒されていた。

 もし相手の気持ちを無視してユーリが気に入った相手と無理矢理にでも婚約を結べば将来自分も倒されるのではないかと婚約に対して後ろ向きになっていたのだ。


 それは物語であって事実ではない……空想と現実を同等に扱うべきではないとそうクリスティアが諭そうと口を開く前に、エヴァンがふむっと呻る。


「ユーリ様、安心して下さい。パーティーに出席した時点でそのご令嬢達はどうにかしてユーリ様とお近づきになりたい子達ですからご婚約者に選ばれれば有頂天となりましょう。お近づきになりたくない子達は初めから参加していません」

「う、うん?」

「良いですか、ユーリ様はこの王国の王子で将来は国王陛下となりこの国を背負う立場なわけです。そんな方が皆と同じように婚約者の居ない状態で居ることはそれだけでリスクとなります。女性達はこぞってその地位を我が物にしようと争うでしょうし、他国からはその地位を狙って間者を差し向けられることにもなるでしょう。ラビュリントス学園へと進学すれば思惑を持って近寄ってくる者達も数多くいるでしょうから争いは激化すること間違いなしです。飴に群がる蟻のように……うぅっ、お可哀想に有象無象に群がられたユーリ様は骨さえ残らないでしょう」

「そ……そうなの!?」

「まぁ、エヴァン様。そのようにユーリ様を怖がらせないでください」

「おや、これは失敬」


 両手で顔を隠し泣き真似をしてユーリの将来を悲観するエヴァンに、骨だけになった自分を想像しゾッとして顔を青くするユーリ。

 そんなユーリを隠した口元に笑みの形を浮かべて見ている意地の悪いエヴァンを、クリスティアが窘める。


「私が言いたいのはそういった者達に無用な争いを起こさせないためにもこの度のご婚約は重要になるということです。劇のようにそこにお気持ちがないのは残念なことですが……幸せに暮らしましたで終わらせられないのが現実です。一国の王子として先々のことを考えれば無用な争いを避けるためにも致し方のないことです」

「はい」


 クリスティアにも言われたことをエヴァンにも改めて言われ、しゅんっとユーリは項垂れる。

 本当はユーリとて分かっている、国のためには自分のこの婚約は重要であるということを。

 憂鬱になっても意味がないということを。

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