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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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ユーリ・クインの憂鬱②

「僕らが共謀して事件を起こそうとしてるみたいに言わないで、違うから。クリスティーとは初めて会うんだったよね?彼はエヴァン・スカーレット、父上が招いた魔具師なんだ」

「まぁ、そうなのですね。お初にお目に掛かります、クリスティア・ランポールと申します。どうぞクリスティーとお呼びください」

「これはこれはご丁寧に。エヴァン・スカーレットです。どうぞ私のことはエヴァンとお呼び下さい」


 貴族間の礼儀などには疎いエヴァンは頼りなげに頭を垂れる。

 この国、随一の魔具師であるとは到底思えない頼りない姿だがその力量はどの魔具師も敵わないほどに優れており、エヴァンの数々の作品によって今ラビュリントス王国はどの時世よりも栄えている。


 そういえばエヴァンに与えられた作業用の部屋はここから随分と離れた所にあったはずなのだが。

 人が居るとあまり作業に集中できないとエヴァン自ら選んだ場所から遠いこの場所に何故いるのかとユーリは小首を傾げる。


「それで、どうしてこんな所に?君の作業室はこことは反対側にあるよね?」

「実は園丁に頼まれて新しい魔法道具を開発しておりまして……見事に失敗したので気晴らしに散策をと。綺麗な花達も見頃でしたので」


 手に持っている真っ二つに折れたプロペラを持ち上げて見せるエヴァンがなにかを失敗するのは珍しい。

 いや、失敗を誰かに見せるのが珍しいのだ……ユーリはいつも成功した作品が献上されるところしか見ていなかったのだから。


「なにを作っておられるのですか?」

「東の水の庭園にある人工池を綺麗にする道具です。暫く前からなんだか嫌な匂いが出ているとかで……花の匂いを邪魔すると庭師達が困っているそうです。今、そちらを歩いてきたのですが……私にはよく分かりませんでしたけど」

「ふふっ、専門家には専門家にしか分からないこともあるのでしょうね。そして誰に気付かれなかったとしても妥協ができないのがまた専門家であるが故なのでしょう」

「えぇ、問題を見付けるもの専門家であり解決するのもまた専門家であるということです。王妃様が今度そちらで大規模なガーデンパーティーを開きたいそうなので早急に対応して欲しいと要請されまして……教会の改装が一段落しましたので急ぎ魔道具を作製しているのですが、中々上手くいかず」

「そういえば母上が新しい庭師を雇ったっていってた。完成するまで住み込みにさせるんだって張り切ってた」


 またパーティーが開かれることに多少なりともユーリはげんなりする。

 今月に入って大きい規模のもので五度は開かれているパーティー。(小さい規模だと更に多い)

 王宮で開かれるとなるとユーリの参加は強制となり、終わりの見えないご令嬢達からの挨拶に上げた口角が引き攣るのだ。


「教会の改装を手がけたのはエヴァン様なのですか?わたくしまだ拝見しておりませんが、とても素晴らしくなったと両親よりお聞きしております」

「えぇ、教会は色々な人に安らぎを与える場であるべきなので……例えば身体が不自由な方のための改装などをしました。こちらに来る前は色々な国を渡り歩いたこともあり色々な人を見てきたものですから。仕事も転々としていて一時期司祭だったこともあるんです。そのよしみで改装を頼まれました」

「まぁ、司祭様だったのですか?」

「信じてみれば救われるのかと試してみたのですが……祈ったところで救われなかったので辞めてしまいました」


 ニッコリと目を細めて笑ったエヴァンの表情の中にはこれっぽっちも神を信じる気持ちが含まれていない、それはいっそ清々するほどに。

 そんな彼が司祭を選んだことが、ユーリは不思議でならなかった。


「どうして魔具師になられたのですか?」

「元々趣味で魔法道具は作っていたんですがそれが便利だと噂が広まりまして、あっちこっちからこれを作ってくれあれが欲しいという要望に答えていたらいつの間にか……私は色々な人と出会いたかったので乞われればどんな場所にも行きましたし。お金もそれなりに貰えますから魔法道具作りは丁度良かったんです」

「ではまた乞われれば……何処かへ去る予定なのですか?」


 根無し草のようにぷかぷかと……。

 それはラビュリントス王国にとって損失となるだろうとクリスティアが緋色の瞳でじっと見つめれば、エヴァンは困ったように頬を掻く。

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