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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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ゲストルームでの殺人⑦

「でもちょっと待てよ、クリスティーがゲストルームに来てすぐ殺人が起こったとすれば犯人はユーリとすれ違うまでこの部屋に居たってことか?クリスティーが寝ているのに?逃げずに?というか普通、人が寝ているのに殺人を犯すか?」

「そうなりますわね。殿下が見た逃げた人物は殿方でお間違いはなかったのしょう?」

「あぁ、それは格好や体格から間違いはないだろう」

「でしたら、短剣はご令嬢が準備した物ではなく犯人側が準備した物でしょう。不意をつかなければ腕力的に短剣では女性に勝ち目はないでしょうから。それにこちらのお邸の物にしては些か装飾が質素ですし女性用のゲストルームに短剣を飾るなんてことはまずないでしょう。そう考えますと殺人は衝動的ではなく計画的に行われた可能性が高いと思われます。わたくしの姿はソファーで横になっていたので犯行時には背もたれで見えなかったのでしょうね。それでもどちらかが逃げ回っていればわたくしの姿を見付けることも出来たでしょうが部屋に乱れもないことからそれもなくご令嬢は殺害されたとわたくしは考えます。となりますとご令嬢の遺体は今現在置かれている場所ではなく本来はこちらの血溜まりのある入り口付近にあり、殺害後に今ある場所まで引き摺り置かれたということになりますわ。何故引き摺ったのかは分かりませんがなにか裏工作でもなさるつもりだったのか……殿下とすれ違うまでこちらの部屋に居たのにはなにかしらの理由が、証拠の隠滅をしていたのかもしれませんわね。激しく抵抗されたのでしょうからその弾みでなにか個人を特定出来る証拠を落としたとか……遺体を前にして冷静になれば自分の犯行を隠すためなにか証拠を残していないか不安になり確認をしたのかもしれません、その過程で眠っているわたくしを見つけ犯人とするために短剣を握らせたのでしょう。わたくしが殺されなかったのは幸いというべきですわね」


 誰が来るとも分からない状況で随分と大胆な奴だ。


 入り口の扉からクリスティアの眠っていたソファーまで大体2メートルほど離れている。

 扉の近くから続く血痕の跡の先にあるリネットが最初に倒れていたのであろう一際大きな血溜まりは大体1メートル離れていないかくらいの床のタイルに半分とカーペットに掛かるようにして半分とでそれぞれ鮮やかに薄暗い穴を開けている。

 そしてそこから右に向かって人幅の引き摺った跡がソファーの方向へと続いている。

 もし犯人がクリスティアの存在に気付いたときに一人も二人も変わらないとその短剣を持って刺していたならばと考えるだけでぞっとする。


 クリスティアが眠ってくれていて結果として良かった。


「犯人に繋がることを本当になにも覚えていないのかクリスティア?」

「えぇ、全く……それよりそろそろこの状況を誰か邸の者にお伝えしたほうが宜しいかと思いますわ。現状考えうる推理をこの場で続けても先は見えませんし、いつまでもわたくし達で籠城するわけにもいきませんし」

「だが……君はどうするんだ」

「殿下、貴族特権などという古い因習は取り払うべきですわ。わたくし一度地下牢に入ってみたかったのです」


 なんら解決に到っていないクリスティアの処遇に、もうこうなれば向かう先は一つだとウキウキしながらクリスティアは再度両手を差し出してくるのでその手をユーリは忌々しげに軽くだが叩き落とす。


「今は地下牢なんてものはない!」


 そんな時代錯誤の代物は人権への法が改正され正式な警察組織が出来た時点で全て改められ埋め立てられた。

 城にあったものも改修工事をした際に全て取り払ったので地下奥深くにすら眠っていない。

 今、城の地下にあるのは使用人達が仕事を行うための行き来する秘密の通路くらいだ。



「取り敢えずクリスティーは第一発見者として申告して警察には丁重に扱ってもらおうユーリ、主催者には俺が上手いこと話しておくから」

「頼んだハリー」

「そんな!ハリーそんなの駄目ですわ!わたくし黙秘いたしますから一度、一度でよいのです地下牢に入らせてくださいませ!」

「だからないって言っているだろうクリスティア!?」


 ユーリとハリーの心配を他所に頑として地下牢に入ろうとするクリスティア。

 何処に地下牢に入りたいが為に他人の罪を被ろうとするご令嬢がいるのか。

 いい加減にしなさいと怒るユーリにクリスティアはまさに悲劇のヒロインかの如き衝撃を、死体を見ても受けなかった衝撃を、地下牢に入れないことで受けたという顔をする。


「そんなショックを受けた顔をしても駄目なものは駄目だからな!クリスティアは私が別のゲストルームに連れて行く……ハリー、後は頼んだぞ!」

「任せてくれ」


 切実に、切実に頼んだとハリーに後を任せるユーリのその眉に深く寄る皺に、その苦労は十分に理解しているとハリーは力強く頷く。

 このままこの部屋に留まれば地下牢へと入るために、捜査に来た警察に有りもしない証言をして捕まろうとするかもしれないクリスティアを殺人現場からユーリが強制連行する間、ハリーがクレイソン侯爵へと状況を伝えて警察を呼んでもらう手筈を整えるのだった。

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