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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
305/632

ランポール邸の客間にて①

「はぁ……しんど」


 怒濤の朝を終えたランポール邸の客間。


 太陽が真上を少し過ぎた頃、羽はたきを片手に持ったアリアドネはそれを魔法のステッキのように上下に振りながら疲れ切った溜息を吐く。


 ルーシーに扱かれ、エルに毒だと果実水を飲まされ散々な午前中だった。


 クリスティアもクリスティアでアリアドネを無駄に構うものだから……二人の嫉妬心を余計に煽った結果、健気なヒロインを虐める小姑のように、クリスティアに気付かれないような小さな嫌がらせを器用に二人からされ続けてアリアドネは疲弊しきっていた。

 そんな細やかな嫌がらせから昼休憩をとるために漸く開放されたアリアドネは今、休憩後にクリスティアに指示されて客間でかれこれ30分ほど待機している。


 いびられる(とはいえクリスティアに気付かれないようにエルもルーシーも上手くアリアドネをいびっていたのだが)アリアドネを不憫に思い休憩時間をくれたのだと信じてはいるものの、なにもない時間というのは手持ち無沙汰なので掃除をしている。

 この数ヶ月でサボろうとすると何処からともなく現れたルーシーによって叱られてきたので、明確に休憩だと言われないとなにかの罠ではないのかと疑ってしまうのだ。

 とはいえ動かす手は適当にしているフリで、視線は先程から窓から見える流れる雲をぼんやりと見つめている。


 朝早くに叩き起こされたせいで流れる雲を数えていると眠くなりそうだ。

 客間のソファーで横にでもなればそれこそルーシーに見付かったとき大目玉なので立ったまま寝る術を身に付けたい。

 大きな欠伸を一つ漏らしながら催眠術をかけてくる空から同じくらい広い広い庭へと視線を向ければ、父親であるミース・フォレストの姿を見付ける。


「あっ、お父さん」


 楽しそうに庭を整える生き生きとした父親の姿。

 今朝、ミースが咲かせた薔薇を見たクリスティアは大いに喜び、これだけ素敵で綺麗な薔薇を咲かせてくれたのだからボーナスを弾まないとっと言っていた。


 ミースの前職は同じ園丁でもブラックもブラック、真っ黒黒の職場で働いていたので、薔薇を咲かせただけでボーナスを支給するというランポール家の発光して眩しいくらいのホワイト労働環境に感謝しかない。

 日に日に血色の良くなっていく両親を見ていればクリスティアに騙されてアリアドネはメイドになったようなものだったけれども結果として良かったのかもと思っている。

 アリアドネ自身も掛け持ちしていたバイトを辞めれたし、ランポール邸に来て2キロほど太った。


 前世の記憶でアリアドネの糸という乙女ゲームの悪役令嬢が住む魔の巣窟だと思っていたランポール邸に住み始めた頃はどうやって逃げようかとそんなことばかり考えていたのだが……今やすっかり天上の楽園だ。


 だがまだ気は抜けない、なにかあればすぐに逃げるつもりで逃走経路を確保しているのだからと邸から見える変わりない幾つかの逃走経路を見ていれば、その一つであるランポール邸へと続く小道から母であるパシィ・フォレストが邸の方向からバケット籠を片手に足取り軽く現れる。

 最近のパシィの一日といえばランポール家の夫人であるドリー・ランポールに呼ばれて共にお茶や会話を楽しむことなのでその帰りなのだろう、籠には遠目から見ても分かるほどにパンやお菓子、飲み物が詰め込まれている。


 物珍しいパシィの性格にすっかり珍獣としてドリーに可愛がられているので、昼食をミースと共にすると言いそのお茶会から辞するときにでも持たされたのだろう。

 確かに、娘のアリアドネから見てもパシィはなんというか妖精の国から来たと言われても納得出来るほどに浮き世離れした性格だった。

 危機察知能力が低く、困っている人を見ると放っておけない人の良さ、何度詐欺に遭っても人を信じ続ける純粋さ……ミースも似たようなものなので、そんな両親によって長らくの貧乏生活をすることとなったアリアドネの疑心暗鬼はすっかり根深くなってしまい……どんなに良くされていても今だクリスティアのことを信じきれないでいるのだ。


 ミースの休憩時間なのだろう。

 手を振るパシィに気付き作業を中断させたミースが走り寄り持っていたバケットを受け取ると、二人は身を寄せ合い去って行く。

 何処かの木陰でお昼休憩でもするはずだ。

 前世では両親のそんないちゃついた姿を見ることがなかったせいで恥ずかしくなっていれば、客間の扉がガチャリと開く音がして、肩を跳ねさせたアリアドネは羽はたきを背中に隠し振り返る。

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