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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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毒殺未遂事件⑥

「まぁ、これは一体どうなっているの?」

「クリスティー!一体なにをしたんだ!?」


 そんな二人の感動的な雰囲気を遮るように、邸から出て来た女性と男性が驚きの声を上げる。


 このランポール家の主人であるアーサー・ランポールと夫人であるドリー・ランポールはつい先程、執事であるマースに娘であるクリスティアが庭で食事会を開いているので来て欲しい乞われたので来たのだが……眼前に広がるのは食事会とは程遠い状況。

 その状況に、とうとう我が家で惨劇が起きたのだ、我が娘の悪意ある無邪気さならばいつかやらかすと思っていたが、よりにもよって他人を巻き込むとは……(主にアーサーが)頭を抱える。


 辛うじて聞こえるいびきや息遣いで倒れている者達が生きていることは分かるのだが、目を覚ましたらどうなることやら。

 謝罪に賠償にクリスティアを婚約者にと望んでいる国王陛下からの小言、そして社交界での醜聞……これから伸しかかってくるであろう数々の対応を嘆くアーサーと、驚いてはいるものの倒れている者達がウエルデ家の者だと分かり、社交界でジーニアとバトルを繰り広げてきたドリーは小気味よさそうに笑みを浮かべ……クリスティアに抱き締められている少年に目を向ける。


「その子はどうしたの?」

「まさか誘拐してきたのか!?」

「お父様、お母様、ご紹介いたします。わたくしの弟、エル・ランポールです」

「どういうことだ!?」


 さっぱり意味が分からず尤もな雄叫びを上げたアーサー。

 それに驚いたのか、それともなんてことのない(というわけでもないけれども)家族の会話に安心したのか……。


 分からないけれども、今日この日まで自分を縛っていた重しのようなものがこの騒がしさと共に去って行き……エルの身を軽くすると、我慢していたはずの涙がボロボロと瞳から零れ落ちていく。


「お父様が大きな声をお出しになるからエルが泣いてしまいましたわ!酷い!」


 グスグスと鼻を啜るエルの泣き声を聞いて悲劇のヒロインのような声を上げ演劇チックにエルを抱きしめ庇うクリスティアの責め。


「あなた、幼子を泣かすなんて……見損ないました」


 夫の醜態に信じられないといった風に白い目を向けたドリーの責め。


「な!?ど、えっ!?」


 この状況がなに一つとして理解できないというのにどうしてそんな責めを受けなければならないのかと混乱するアーサーの耳に更に……邸のほうから大きな巨体が雄叫びを上げながら走り寄ってくる。


「うぉぉぉ!お前ぇぇ!俺の可愛い甥っ子を泣かせたのかぁぁぁ!?」

「バ、バントリ卿!?何故ここに!?」

「まぁ、ヘイリーお兄様。いつこちらへ?」

「こんな状況ですし、わたくしがお呼びしていたのです」


 全てを薙ぎ倒さんとする勢いで猪突猛進に走ってくるのはドリーの兄であるヘイリー・バントリ。

 シスコンをこじらせていてアーサーを毛嫌いしているヘイリーには予めウエルデ家の悪行を伝え、その罪を償わせるつもりだということをクリスティアが説明している。


 いつもは勇ましく凜々しい瞳が潤んでいるのでクリスティアとエルとの一部始終を見て聞いて泣いていたのだろう。

 厳つい見た目と違い子供が大好きなのでエルの虐待写真を見て怒り狂っていたヘイリーは今、他の捜査官達に眠ったまま運ばれていくウエルデ家への向けられない怒りの矛先を理不尽にもアーサーが嫌いという理由だけで向けている。


 ちなみにアーサーがヘイリーをお義兄さんと呼ぶと絞め技を食らうので敬称で呼んでいる。


「ほら、伯父様がお怒りだわ。エルに謝ってくださいお父様」

「そうよ、謝ってあなた。お兄様のお怒りが収まるように」

「さっさと謝れ!でなければこいつらと一緒に貴様を逮捕し、拘留してドリーと離婚させてやる!」

「職権乱用……いや……なんだ……その、すまない」


 アーサーが悪いことなど一つもないのだがクリスティアにドリーにヘイリーに非難され、孤軍の中では戦えないと悟り素直にエルへと身を屈ませて謝る。

 その緋色の切れ長の瞳を見て、クリスティアと同じく優しい色なのだと思った瞬間……堰を切ったように寂しかったという思いや嬉しいのだという思いが溢れ出してきて、声を上げて泣き出したエルにアーサーは慌てる。


「お前ぇぇぇ!顔が怖いから余計泣いたではないかぁぁ!」

「ちょっ!お義兄さっ!」

「誰が貴様のお義兄さんだ!俺はまだ貴様を認めてなんていない!ドリーと離婚しろ!」

「お兄様!降ろして下さい!離婚はしません!」


 ヘイリーがアーサーの胸ぐらを掴み持ち上げ、ドリーが慌ててそれを止める。


「うふふっ、伯父様はねお母様のことが大好きだからお父様のことが大嫌いなの」

「ちがっ、ちがいますっ!」


 クリスティアがエルの肩を抱き寄せその光景を見てクスクスと笑い説明するのを、しゃくり上げながらも怯えたのではない違うのだと手を伸ばし止めようとするエル。

 こんなに騒がしくて暖かくて、愛情が溢れるそんな空気はもう随分と昔に忘れ去っていた……いや、きっとエルは初めて知ったのかもしれない。


 紛れもなく家族の温もりだった。

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