表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
299/627

毒殺未遂事件③

「あら、ジャガイモのポータージュ?私、食べられないのだけれど……あの交換してくださる?」

「私のはカボチャのスープだわお母様」

「そうなの?でしたら私のと交換を……」

「まぁ、招待状の返事に夫人はカボチャのポタージュがリリアル様はジャガイモのポタージュが苦手だとあったはずですが……」

「そうなのですね、代筆を頼んだ侍女が私とリリアルのことを間違えたようですわ。リリアル、お母様のと交換しましょう」

「えぇ、お母様」

「交換をお願い」

「畏まりました」


 ごくごく自然な流れで、ジーニアに頼まれた近くのメイドが二人のスープを交換する。

 そのスープをジーニアがスプーンに乗せて唇へと入れて飲み込んだ瞬間、ガシャンという音と共に伯爵夫人が澄んだ水色の瞳が濁り……そのまま机に俯せるように倒れる。


「一体なにがっ!ぐっ!?」


 ガタン!!


 一瞬、レイヴスその表情は歓喜に歪んだ。


 だがすぐに眉根を寄せてこの状況に驚き立ち上がろうとする……が、次いで驚きで追随するはずだったリリアルがジーニアに寄りかかるようにして倒れ、そしてエドガーも……同じように机に俯せるようにして倒れた状況を見て、驚愕に表情を歪ませるとレイヴス自身も襲われた眩暈に椅子に座り込む。


「い、一体なにっ!?」

「こんなに良く効く薬だとは驚きだわ。そうでしょうルーシー?」

「はい、クリスティー様」


 クスクスと笑い声を上げ口元をフキンで拭ったクリスティアが声を上げる。

 その声に力の入らない体を椅子に寄りかからせて視線だけを向けたレイヴスの視界にあの、リリアルにつけていたあのメイドの姿が映り……驚愕に瞼を見開く。


 その丸く見開かれた視界に入るようにクリスティアはルーシーに渡された一つの小瓶を持ち上げてレイヴスへと見せつける。


「き、貴様!ま、まさか!?」

「ウエルデ伯爵、毒入りの料理はお気に召したでしょうか?本当はフルコースでおもてなしをしたかったのですが、致死量を考えればこれ以上の料理の準備はしておりませんの。あなたがわたくしを陥れるために準備した毒入りの前菜とスープですわ」


 ニヤリと笑った少女の姿に無邪気さはあれど幼さはなかった。

 牙を覗かせ、爪を研いだ赤い悪魔が……愉快さを堪えきれないといった様子でレイヴスを見つめている。


「お褒めいたしましょう。我が邸で大胆にも毒殺未遂事件を起こそうとなさるとわ。同じ婚約者候補であるリリアル様を狙ったと見せかけて伯爵夫人を被害者にする、犯人役はわたくし。そのために夫人自らに毒を呷らせたのですね。夫人をどう言いくるめて飲ませたのかしら……死にはしない、娘のための崇高な犠牲だとでもおっしゃったの?愛とはときに寛大ですわね。どちらにせよ卑怯で卑劣で感嘆いたしますわ」


 ガクガクと恐怖で震えながら何故事件を画策したことを知っているのかという表情をレイヴスは浮かべているが、それは容易に想像出来たことだ。

 伯爵夫人は子供達をそれはそれは溺愛しており、不都合な事実はどんな手を使ってでも解決すると有名なのだから。


 自分の愛する娘が王子の婚約者になりたいと切に望んだのなら、どんな犠牲も彼女ならば厭わないだろう。


「わたくしに返したあのブローチに同じ成分の毒を仕込まれたのでしょう?警察が調べればまずはわたくしを疑わずにはおられませんものね。わたくしが捕まれば幸運、捕まらずとも……この事件の被害者として、酷い惨事の噂を疑いをもって広めることが出来れば……そのような不届きな者をユーリ様の婚約者とはしておけないと抗議が上がりわたくしは確実に候補者から外れることでしょう。舞台とは悲劇のヒロインがいてこそ人々の心を掴むものですものね」

「ふ、ふざけっ!警察を!警察を!」

「まぁ伯爵、伯爵。あちらをご覧になって?邸の窓からこちらを見ているあの大きな人影。わたくしがお呼びした特別なゲスト、中央対人警察の署長でわたくしの伯父様ですわ。わたくしのことをとてもとても可愛がってくださっておりますの」


 あははっと楽しげに椅子から立ち上がりレイヴスに寄り添ったクリスティアがその肩に手を置き、その耳に唇を寄せて囁く。


「それにそれにほら、お気づきではございませんか?本日わたくしが選んだ最上級の使用人達のことを……」

「はっ?」

「皆、理不尽な理由で侯爵家から暇を出された憐れな子達ですわ」


 そんな馬鹿なとドキドキと早くなる脈拍を感じながら脂汗を流し、レイヴスは視線を左へ右へと動かす。


 仮面を外したあの使用人はそうだ、キュワール家の財産を勝手に使うなと諫めてきた執事で、あっちは亡きキュワール家の当主の部屋を勝手に触らないで欲しいと口答えしてきた侍女。


 キュワールの家に長く仕えていた使用人達は兄が大切にし、兄が守り、そして私が長らく虐げた者達ではないか!


 自分が今、狼の群れに紛れ込んだ羊なのだと理解し……これから一体どう食われるのかと恐怖するレイヴスは降り注ぐ冷酷な視線達に無残にも食い散らかされたくないと椅子から転がり落ちる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ