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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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エル・キュワールの孤独③

「こんにちは。えっと……エル・キュワールくん?」

「……はい、司祭様」


 案内する部屋を間違えてはいないのだろうか?


 エルがそう思い戸惑ったのは迎えたのがいつもとは違い司教ではなく司祭だったからだ。

 いつもは年老いた白髪のふくよかな司教が不遜な態度で簡単な対話をするのだが、今日は緋色の髪を後ろに束ねた若い男が少し息を荒くして様子で立っている。


 初めて見る司祭だ。


「あぁ、実はいつも対話をしているゴーン司教なんですが別の子の対応が長引いてしまっていて。今日は代わりに私が君の話を聞くことになったんですよ。すいません急遽決まったことで私も別の所に居たものですから君を待たせてはいけないと走ってきて……あっ、教会内で走ったことは内緒ですよ怒られてしまいますから」


 エルの戸惑いの視線に気付いたらしく人差し指を唇に当てて内緒だと黄金色の瞳を細めて笑ったこの見知らぬ司祭にエルの警戒心は薄れる。

 なんだか人好きするような人なのだ。


「では座ってください、幾つか質問をしますね」


 いつもとは違う司祭にいつもとは違う質問の形式。(いつもは時間も掛からず簡素に終わるのに今日は根掘り葉掘り聞かれた)

 そして最も違ったのは立たせたエルの全体を両手で持った四角形のタブレット型の魔法道具を通して見るということだった。


 これは後で知ったことなのだが、司祭が使用していたそのタブレットは教会で新たに導入されることになった身体検査に使うレントゲンのような物で、体の外的に問題のある箇所があれば反応し衣服を透過して撮影が出来る物らしい。


 本来ならば聖職者との対話時には司祭以下の助祭の立ち会いの下、身体検査も行われるはずなのだがエルはいつも立ち会いもなく腕を見るだけの簡単な検査しか受けたことがなかった。

 通常よりも多く教会に寄付金を出しているレイヴスが自分達がエルにしている行いを知られないようにゴーンに働きかけていたからだ。


 レントゲンだとは知らずに体中を検査されていたエルの背中に不意に司祭の手が触れて、ピリッとした痛みが走り肩が跳ねる。

 歯を食いしばる前に、受けた痛みに眉根を寄せるエルの表情をじっと見つめる司祭の黄金色の瞳に、全て見透かされている気がして恐ろしくなったエルは戸惑いと焦るような気持ちからその視線から逃れるように俯く。


「ふむ。ゴーン司教以外とは対話をされたことはないのですか?通常は毎回同じ者が対話をすることはないはずなのですが……」

「はい、ありません」

「エルくんは特別なんですね……分かりました、ありがとうございます」


 そういうと新しい司祭は扉の外に待機していたらしい助祭を呼ぶ。


「今からミサを行いますよね?そちらに参加をさせてからウエルデ卿の元へとご案内してください」

「畏まりました」

「……あの……司教様より伝言があると思うのですが……」


 帰されるということは問題ないと判断されたのだろう。

 誰が対話をしても結局は同じだとがっかりした気持ちと安堵した気持ちを抱えながらエルが帰される前に司祭へと問う。


 伝言を聞かなければレイヴスになにを言われるか、されるか分かったものではない……。


「伝言……あぁ、そうですね忘れていました。司教様よりブローチに秘密があるので注意しておくようにとの伝言を預かっていました」


 ニッコリと笑んだ司祭の意味の分からない言葉をしっかりと覚え、エルは助祭の案内のもと聖堂にある聖女が祈りを捧げ神がその祈りを聞き届ける様を描いたステンドグラスの近くにある柱の影になっている椅子に座りミサをなんの感慨もなく聞く。


 特に信仰心があるわけではないし幾度となくこの状況から助けてくださいと神に祈り続けたエルからすれば、変わらない現状を思えばこれから先も神を信じることはないだろう。


 司祭に言われたから仕方なく聞いているフリをしているだけのエルの隣へと誰かが座ったのが視界の端に映る。

 誰にも迷惑が掛からないように一番後ろの隅のほうの影の席に座ったというのに誰が隣に座ったのか。

 黒い瞳に気付かれて騒がれなうように俯いていれば淡いピンク色のドレスの裾が揺れ、柔らかく優しい声が小さく響く。

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