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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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ゲストルームでの殺人⑤

「それにもう一つ、わたくしが殺したにしては不自然な点がございますわ」


 何処でしょうっと茶化すように両手を広げたクリスティアは間違い探しを促す。

 まともに思考が働く状態では無いし出来ればこの部屋をじっくりと見たくはないのだけれども、クリスティアの無罪が掛かっているならばとユーリとハリーは嫌々ながらも部屋を見回す。


 血しぶき彩るソファーに、リネットまで続く血液の道。


 机の上のハンカチに包まれた血に染まった短剣に、華美だが何処にでもあるゲストルームの血まみれの内装。


 血と死体以外はなにも不自然な所は無いではないかと眉を寄せるハリーに、隣のユーリは部屋を一周するように視線を動かしクリスティアへと戻すとハッと瞼を見開く。


「血だ!」

「血?」

「クリスティアの服に血が一滴も付いていない!」

「正解ですわ殿下」


 流石ですっとスカートを持ち上げてくるりとドレスを翻してみせるクリスティアの無邪気さ。

 ダンスホールで見れば蝶のように揺れるドレスとクリスティアのあどけなさに人々の視線が集まっただろう。

 折角ユーリが初めて贈ったドレスだというのにすっかり惨劇の思い出となってしまった。

 もしかすると証拠品として応酬されるかもしれないそのドレスに、あんなに考えたデザインなのにと切ない気持ちになりながら、正解を褒められて嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちでユーリはクリスティアを見つめる。


「通常刺殺の場合、体に突き立てた剣を勢いを持って抜けば必ず血が飛び散ります。部屋を見ますと壁や床の広い範囲に飛沫血痕がありますしこれだけの出血量からして刺したのは一度だけではないでしょう。なのにどうでしょう、短剣という近距離でしかも何度も刺したというのにわたくしのドレスにはその一滴の血も浴びてはいないのです」


 青いドレスなので分かりにくいかもしれないが、血が付いていればそこだけ染みのように濃くなっているはず。

 なのにクリスティアのドレスはこの邸に来たときのまま染み一つ無い綺麗な状態だ。

 クリスティアの衣服の何処かに血が付いているのだとしたらユーリが見る限りでは短剣を握っていた手袋くらいだろう。


「このドレスで夜会に来たことは登場が登場でしたので数多くの注目を集め、鮮明な記憶として皆様の心に刻み込まれているでしょうから他のドレスに着替えていないことの証人は数多くおりますでしょう。殿下がオーダーメイドで作らせたこのドレスのデザインをわたくしは今朝プレゼントをしていただき知りましたので予めもう一つ作るということは出来ません。仮になにかコートのような物を着てドレスに血液が付かないよう凶行に及んだとしてもこの部屋から出る時間のなかったわたくしがそのコートを隠しておけるような場所などたかが知れておりますので探せば見付かるはずでしょう。まぁそのような物は無いので見付かるはずはないでしょうけれども。あぁそれと、わたくしは握っていた短剣をよくよく見たのですけれども何度も刺したせいか柄の部分も血液で濡れておりそれで手が滑ったのか、柄の部分に白い衣服か手袋の布切れのようなものが挟まっておりますわ。わたくしの手袋ではない色なので恐らく犯人の着用していたものの切れ端だと思います」


 さていかがでしょうかとクリスティアが殺したかもしれないことへの反証は終わり、ユーリもハリーも新たに示された証拠に机に置かれた短剣の柄を見る。


 血に塗れた真っ直ぐで鋭い切っ先の刃に装飾のない黒の柄。


 何処にでも売っている安物の短剣の握りと鍔の間部分に小指ほどの長さで血に濡れた白い布が挟まっている。


 それを見てユーリもハリーも犯人が他に居るという物証になり得る証拠にほっと一安心したけれども、そうなると誰がリネットを殺したのかという新たな疑問が浮かぶ。

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