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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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庭のかくれんぼ②

「ははっ、驚かせてしまったみたいですね」

「す、すいません!気持ちよくってつい!」

「いいえ、良い日和ですから。僕の部屋から楽しそうに全力疾走をしている姿が見えましたし……お疲れ様です」


 白いシャツの前で緋色のループタイを揺らし紺色のズボンというラフな格好のエル・ランポールが眼鏡の奥の黒い瞳をニコニコと細めながらアリアドネへと近寄る。


 攻略対象者にだらしなく眠りかけていた姿を見られたなんて恥ずかしすぎる……。


 ベンチから立ち上がりメイドらしく頭を下げたアリアドネに気にしていないといった風にエルは後ろで待機していた従者に持たせていたサルヴァに置かれたグラスを受け取ると手を上げ、控えていた従者を帰らせる。


「座ってください。走って喉が渇いたでしょうから飲み物をお持ちしたんです、どうぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「どうぞ、気安く。共に旅行した仲なのですから」


 差し出されたグラスにアリアドネの胸がときめく。


 ルーシーから逃げに逃げて喉が渇いていたので嬉しすぎる!

 逃走するアリアドネの全力疾走姿を自室から見て笑い、からかうわけではなくわざわざ飲み物を持ってきてくれるなんて……!


 エルは公国の旅行で起きた事件のときもアリアドネのことを気遣ってくれたこともあり殊更感動する。


 ゲームでのエルは両親を幼い頃に亡くし引き取られた親戚一族からは冷遇されて育つが、公国では珍しいその見た目から悪役令嬢であるクリスティアの目に留まり売られるようにしてランポール家へと養子入ることとなる。

 ランポール家では力による支配を受け、クリスティアに都合の良いように動く駒として洗脳され育ち、感情の起伏が薄く酷く冷酷な性格となり、他の攻略対象者を攻略するときにはクリスティアの命により敵となって出てくることもしばしばあった。

 幼い頃から孤独で愛情に飢えていたエルは自分とは正反対の明るく愛情深く、クリスティアにも臆せずどんな困難にも立ち向かっていくヒロインの強さに惹かれ次第に心を開いていく……というシナリオなのだが。


 エルの難点は攻略のシナリオが進むに連れて強い執着心を表すところだった。

 ヒロインが誰か他の異性と話すとバッドエンディング。

 誰と何処になにをしに行くか毎日の報告をしないとバッドエンディング。

 エルを不安にさせたり孤独にしたりするとすぐに監禁からのバッドエンディングルートのオンパレードだったので難易度は高く、アリアドネの糸にある殆どの死亡ルートを担っていたので遺影スチルの宝庫と呼ばれていた。


 なのにそんなエルが最初から人を気遣うなんて……。


 ゲームとは違いクリスティアがまともに育ててくれたお陰だと感謝をしつつ、ルーシーの地獄のスパルタ教育の後で、優しくされると大仰に感じてしまう。

 攻略対象者を惹きつけるヒロインの魅力に一目惚れでもしたってかっとその優しさを過剰に意識するアリアドネは少しだけ照れくさくなるものの、残念ながら私の推しはあなたではないので惚れるのだけはご遠慮願いたいと自惚れる(エルにそんなつもりは全くない)。


 とはいえ好意という善意は純粋に嬉しいので、氷の入った水であろう透明の飲み物が入ったグラスを受け取り、まずは火照った体を冷やすようにグラスを額へと当てる。

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