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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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庭のかくれんぼ①

「はぁーーはぁーー」


 早朝から始まったルーシーとの地獄の訓練から逃走して辿り着いた広く迷路のような庭園。

 勝手知ったる他人の家を縦横無尽に走り回っていた足を止めたアリアドネは天高く伸びている木に反省しているかのように片手をついて荒い息を整える。


 クリスティアのメイドに(拒否権無く)任命されてからアリアドネがまず力を入れて取り組んだのは先輩メイドからの行儀見習いでも、おやつをくれる厨房係の籠絡でもなく、なにかあったときのための逃走経路を確保することであった。


 今は良くしてくれているけれども、もしかすると転んで頭を打った拍子にクリスティアが自分の役割を思い出し、悪役令嬢として覚醒するかもしれない。

 ヒロインに惚れた攻略対象達のちやほやっぷりを見て(今のところ全然想像出来ないけど)嫉妬して残虐非道になったりするかもしれない。

 そんなことになった日には両親を連れてすぐさまこの悪役令嬢の巣窟から逃げ出さなければならないと邸の隠し通路や抜け穴、騎士達の警備の隙を調べに調べていた。(とはいえ見つけた隠し通路は使用人専用通路で、誰でも分かるような隠し通路だけなのだが)


 庭は特に力を入れて探索した場所でもある。


 アリアドネと家族に与えられた一軒の立派な邸はランポール邸の裏手側、広大な庭の一番奥の方にある離れにあり、更に奥へと進むとランポール邸を囲む高い高い壁と柵が聳えている。

 2、3メートルはあるであろうその高い塀を乗り越えて脱出するのは困難だろうし、見回りをしている騎士に聞いたのだが塀の上の柵には防犯のための魔法道具が設置されており、侵入者などがあればブザーが鳴り近くの騎士がすぐに捕まえに行くということなので戯れに登って(戯れられる高さではどう考えてもないなのだが)不用意に触れないようにと忠告されていた。


 それにクリスティアが悪役令嬢として覚醒したから逃げるだなんてクリスティアを信じ切っている両親に言ったところでなにを言っているのだと笑われるだけなので、もし出て行くなんてことになるのならば怪しまれないように連れて行ける脱出口を探さなければと。

 アリアドネは時に迷子になりながらも、めぼしい脱出口を見付けるために庭を探索しまくったのだ。


 そして数カ所、良い脱出口を見付けることが出来たのは嬉々として案内してくれた親切な園丁である父親の影響が大きい。

 自分の仕事っぷりを娘に披露出来るまたとない機会に庭の隅の隅まで自慢気に案内してくれたお陰で今やこの広大な庭はアリアドネの庭であり隠れ家でもあった。


 見つけた脱出口はアリアドネのお守りだ。


 追いかけてくるルーシーの恐怖の足音は聞こえないので(アリアドネを追いかけてすらいないのだが怖くて振り返れなかった)撒けたのだろうと一安心し、さすが我が庭といざとなってもこうやって逃げようと、完璧な逃走経路に得意気になりながらアリアドネは木陰のベンチに腰掛ける。


「はぁ……良い天気だなぁ……」

「そうですね」

「きゃっ!?」


 漸く息が落ち着いてきた頃。


 風に揺れる木々の影を見つめながらこのままここで一眠りしたら気持ち良いだろうなと朝早かったこともあり襲い来る睡魔に、アリアドネは眠るつもりはなかったもののゆっくりと瞼を閉じる。

 ちらほらと人通りのあるこの庭で一介のメイドが堂々とサボっていれば普通大目玉だろうが、今のアリアドネを咎める者は誰も居ない。


 近くで作業をしている庭師達は父親であるミースの腕前を買っているので娘であるアリアドネのことを可愛がっており、眠そうなその姿を見れば逆に五月蠅くしてはいけないと別の場所の作業へと去って行くし、見回りをする騎士達は朝早くから行われているルーシーのスパルタ教育のことを知っているので同情心からそっとしてあげようと見て見ぬふりをしてくれている。

 その与えられる沈黙が余計睡魔を誘う中、暖かな日差しに本当に寝てしまわないように思わず一人言を呟けば、横から返事を返され驚き瞼を開く。


 声を掛けてきたということはアリアドネが籠絡していない相手だということ。

 ルーシーに告げ口でもされたら大目玉だという焦りと思いの外、可愛らしい悲鳴を上げてしまったことへの恥ずかしさからわたわたと慌てていれば、そんなアリアドネの姿を見て声を掛けてきた人物は軽い笑い声を上げる。

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