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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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そうして彼女は死んだのだ②

「ガーデンパーティーの日に庭師の遺体が水の庭園で発見された事件をご存じ?」

「い、いいえ」


 何故突然庭師の話を……?


 確かにあのガーデンパーティーの日に騒ぎがあったことは知っていた……そのためにすぐにパーティーがお開きになったことも。

 だが、遺体が見付かっていたなんて……エラは知らなかった。


「あの子はね、王宮で見聞きしたことを情報として売る仕事をしていたみたい。でもねとても腕の良い庭師だったからわたくし連れて帰ろうと思っていたの。あの子が殺されたのだと知ったとき、わたくしその情報を買っていた者達を調べたわ。あの子を王宮へと送った者のことを……そしてこのブローチを作ったの」


 あのブローチをエドガーから受け取ったときエラは粗悪な品物だと思った。

 精巧とは言い難い銀の台座。

 歪んだブローチピン。

 デザインは一級品だというのに作りがこれほど雑な物を公爵家のご令嬢が持っているだなんて……ランポール家の家紋がなければエラは信じなかったはずだ。


 きっとこのデザインには似つかわしくない粗悪な作りは全て彼女の考えなのだ。

 ブローチはその殺されたという庭師、腕は良くとも悪事に手を染めるしかなかった……憐れな庭師なのだ。


「わたくしこのブローチを忘れたわけではないのよ、わざとあの部屋の荷物に忍ばせておいたの」


 それがどういった意味であり、これがどういった意図で仕込まれた薬なのか分かっているのだろう。

 ニコニコとご機嫌な様子のクリスティアとは反対に、エラも薄々勘付き始めた事実に顔色がどんどんと青く、悪くなっていく。


「あなたは、マティス家が違法な薬物の栽培をしていることをご存じ?」

「…………」


 薬物という言葉に、エラの視線が白い粉へと向けられる。

 マティス邸の西のあの古ぼけた庭小屋の近く。


 エリサに近寄るなと言ったあの場所。


 たまたま見付けたあの場所に咲く花は確かに……ブローチに入っていた粉と同じ効能を持つはず。

 沈黙するエラにクリスティアは問う。


「今回のことに思うことはあって?」

「私が……私がお嬢様付きのメイドとなったのは……」


 初めから違和感は感じていた。

 紹介状があったからといっても入ってきたばかりの新人のメイドに普通は令嬢の世話など任せない。

 それなのに評判を聞いて期待しているからだと耳障りの良いことを言って任せたのは、その立場にエラが居ることが必要なことだったからだ。


 全ては計算されていたことなのだ。


 伯爵家がどういった事件を描いているのかは分からない。

 だが、この薬がなにかしらの事件で使用されたときには真っ先にエラを犯人として差し出すはずだ。


 お嬢様のメイドとして忠義心からそのようなことをしたと言って……。


 彼らは都合良く動く駒が欲しかったのだ。

 悪事がバレる前に消せるメイドを必要としていたのだ。


「あなたのことを調べさせてもらったわ。マティス子爵家はあなた達母子を認めておらず離れで暮らしているそうね。マティス家のパーティーの少し前、あなたの母親がマティス家の当主に呼ばれていたことをご存じ?あなたを伯爵家に引き渡すことでマティスの名を正式に名乗ることを許すと言われたそうよ」

「そ、れは……」

「余程嬉しかったのでしょう。あなたが出仕する少し前から病状もすっかり好転していて、マティスの名で参加をされていたパーティーでお話しをされていたわ。そしてあなたの妹とあなたが今お世話になっている伯爵家のご長男であるエドガー様とのご婚約が内定しているとも……お二人がパートナーとしてパーティーに出席されている姿をわたくしも何度か見かけたわ」

「はっ!」


 喉が詰まって息が止まる。

 確信は出来なくても確証もないのだからエドガーは無関係だと信じていた、信じたかった。

 だがその愚かな気持ちは今、脆くも崩れ去ったのだ。


 伯爵家で働くことになってからエラは良いことばかりだと思っていた。


 例えそれが厄介払いのためだったとしても母と久し振りに話すきっかけとなったし、母の役に立てることで父が居た頃のように再び愛してくれるのではないかと淡い期待を抱いていたからだ。


 エドガーと出会えたことだってそうだった。


 優しく気遣ってエラの傷ついた心を慰めてくれたのだと……愛してくれたのだと思っていたのに。


 それはエラを自分の都合の良いように操るために優しさだったのだ。


 エラはこのときに漸く理解した。

 エドガーが言っていた、僕の幸運は僕が君に良い行いをすると返ってくるって仕組みだという意味を……。

 あれは犠牲を強いる優しさなのだ。

 罪悪感なんてものはなく、狡猾に純粋な少年のようなふりをして騙されるエラを弄び心の中で嘲笑っていたのだ。

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