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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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そうして彼女は死んだのだ①

 エドガーがあの青色の粗悪な楕円のブローチを携えてエラに声を掛けてきたのは、王宮でのガーデンパーティーから5日ばかり経った頃の夕刻だった。


 最近、機嫌の悪かったお嬢様が今日に限って何故が機嫌が良く、早々に下がることを許されたので自室へと戻ろうとしていたエラへとエドガーはブローチを差し出してきたのだ。


「これやっぱりガーデンパーティーの日にお姫様の荷物に混ざっていたみたいなんだ、ランポール家の物のようだから返してきて欲しいんだ」


 そうエドガーに言われて疑いなく受け取ったブローチ。


 まさか王宮のあの部屋に少女が忍び込んだことが知られてしまったのかと内心ドキドキとしたが、エドガーからそのことについて尋ねられたりはなく。

 怪しんだりしているわけでもなさそうなので自分が悪いことをしたわけではないのだが不必要な追及をされないように、少女を庇うように、畏まりましたとすぐさま話を切り上げたエラはエドガーからそのブローチを受け取り言われるがままにランポール邸へと訪れていた。


 エラはランポール家の使用人にブローチを渡してさっさと帰ろう……そう思っていたのだが。

 出迎えられた執事に捕まりそのまま客間へと通されてしまう。


「お待たせしてしまったわね」

「いいえお嬢様!」


 伯爵家は今、事情があり元々侯爵家だった邸に住んでいる。

 なのにその邸のどの部屋よりも広い客間。


 たかだか使用人風情がこの上等なソファーに座るわけにはいかず、怯える小動物のように隅で立っていればエラの元へと浮き足だった様子でクリスティアが現れる。


「まぁ、お嬢様だなんて……クリスティーとお呼びになってと言ったではない。ほら、お座りになって」


 公爵家のお嬢様を許されたからといってそのように気安く呼べるわけもなく、口籠もりながらエラは許されたソファーへとそっと腰下ろす。


「本日は先の王宮でのパーティーの際に我が主人のお荷物の中にこちらが紛れ込んでおりましたのでお持ち致しました」

「まぁ、そう。これを持ってきたのね……ルシア受け取って」

「畏まりました、クリスティーお嬢様」


 クリスティアと共に現れたルシアがエラからブローチを受け取る。

 てっきりそれで、はい終わりとなると思っていたのだが……ルシアはそれを机の上に置くとブローチを触り始める。


 一体なにをしているのか訳が分からずエラが戸惑ってその作業を見ていれば銀の薔薇の台座からカチリッと音がして、コンパクトのように青い宝石の部分が上へと開くようにして外れる。

 青い宝石だと思っていたそれはどうやらガラス製で中は空洞だったらしく……そこからなにかを取り出すと白いハンカチの上へと置く。


「あらあら、クリスティーお嬢様の言うとおりで笑ってしまいますわ」

「ありがとうルシア」


 ルシアがその滑稽さを笑うようにして差し出したそのなにかをハンカチごと受け取ったクリスティアは今度はそれをエラへと見せる。

 まるで宝物のように見せられたそれは、なにかの粉が包まれた小さな紙……。


 あの粉は一体なんの粉だろう?


「あなた、これがなにかお分かりになる?」

「い、いいえ……なにかの薬、ですか?」

「まぁ、ふふっ。えぇ、薬には違いないわ。飲むとそうね……神経を麻痺させて最悪、後遺症が残るくらいかしら」

「えっ!?」


 なんでそんな物がブローチの中に……。


 顔を青くしたエラは薬を見つめ、そして開かれたブローチを見つめる。

 嵌められたのだと理解することは至極簡単なことだった。

 マティス家でジョイがエラを嵌めようとしたときと同じ。

 けれどもそんな、そんなまさか……。


 俄にそれが薬であると信じられずにいるのはそれがエドガーから届けるように頼まれた物であったからだ。

 一介の使用人に親切にしてくれていたエドガーがそんなことをするはずがない、なにか……そう、なにか間違いがあるはずだと既に疑っていることには見ない振りをしてエラは必死になって考える。


 エドガーはこのブローチが開くことを知っていたのだろうか?

 いや、知るわけがない。

 でもお嬢様の部屋で投げ捨てられたブローチを拾ったときに偶然にも開いたのならば……。

 そんな都合良く開くだろうか?

 でもお嬢様が投げたブローチを拾うとき彼はなにかを拾う動作を二回したのだ。

 その時に、蓋が壊れて外れたのなら?


 否定と肯定を頭で繰り返しながら、クリスティアが例え信じないとしても自分は潔白であることだけは示さなければとエラは乾いた唇を開く。


「信じてくださらないかもしれませんが、わたくしが薬を仕込んだのではありません」


 口にしたエラの声音は混乱しながらも酷く冷静なものであった。

 信じられなくても良いという半分投げやりの気持ちもあったのかもしれない。

 そんなエラの声音にクリスティアはニッコリと微笑む。


「えぇ、初めからあなたを疑っていないわ。実はねこの度、第一王子であるユーリ・クイン王子が立太子するにあたってご婚約のお話しが広まっているのはご存じでしょう?前回の王宮でのガーデンパーティーはその婚約者候補を決めるものでわたくし、ユーリ様とは幼なじみですから第一候補……というより事実上、内定しているようなものだから、わたくしのことを邪魔だと思う方がそれはもう多くいらっしゃるみたいなの」


 そしてその筆頭がエラが出仕している伯爵家であることは周知の事実であった。

 エラが仕えるお嬢様は、自分が婚約者に選ばれることを疑ってはいなかったのだから。

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