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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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王宮でのガーデンパーティー②

「エラ、休憩室に置いてきた日傘を取ってきてくれる?」

「畏まりました奥様」


 昼少し前から始まったガーデンパーティーは日が高くなるに連れて日差しが少しばかり強くなってきた。

 費用の関係で王都に滞在出来ない他領地から訪れる者達や所用があって遅れる者達への配慮から夕方まで続く予定のこのガーデンパーティー。

 帽子だけでは眩しさを遮れなくなった伯爵夫人の命によりエラは頭を垂れてその場を辞する。


 このガーデンパーティーから離れられることに肩の荷が下りる。

 伯爵家から離れ、荷物の置かれた部屋へと向かう前、さもそれを主人にお持ちするための準備をしているメイドであるかのように装いながら少しばかり飲み物と食べ物を皿に装い、サルヴァに載せて堂々と広い廊下を歩く。


 今日、このガーデンパーティーへの付き添いを言い渡された使用人達は朝食を食べたっきり食事はしていないだろう。

 いや、使用人達を気遣う主人ならば数時間でこの出来レースである無意味なガーデンパーティーから辞するはずなので長くは滞在しない、滞在するとしても交代の使用人を用意しているはずだ。

 この軽食達はお腹を空かせた者達からすれば随分と魅力的なごちそうに見えているようで、すれ違う何処かの貴族の使用人達は羨ましそうにエラのサルヴァへと視線を向けている。


(朝食を食べられただけ良い待遇でしょうに……)


 貴族の邸に居たとしても朝食すら与えられない者が世の中には存在する。

 それに深い溜息を吐いたエラは足早に廊下を進んで行けば……伯爵家に与えられた部屋の前で一人の少女が今、まさに扉に手を触れる形で立っている。


 その姿にエラの心臓は飛び出そうなほど驚く。


「……お嬢様、休憩室をお間違えではないでしょうか?」


 軽食を載せたサルヴァを背で隠し、声を震わせないように注意しながら扉の前に立つ淡い水色のドレス姿の少女へと澄ました調子でエラは声を掛ける。

 その声に、胸元のピンクの薔薇のコサージュを揺らした少女は緋色の視線を扉からエラへと向ける。


 先程は白黒のドレスを着ていたはずなのに……。

 変わったドレスの色を見てわざわざ着替えたのだろうか、着替えたとしても何故此処にいるのかと訝しむ。


 高位貴族や希望した招待客には王宮側が個別に個室を用意してくれているはず。

 この部屋は間違いなく、伯爵家へと用意さられた部屋であり、公爵家へと用意された部屋とは階すら違うはずだ。


(扉が……少し開いて閉じたように見えた気がする)


 まさか中から出て来たのか?


 いや、そんなはずはない……。


 では覗いていた?


 一体なんの意図があって高貴なる令嬢がそのような盗み見のようなことをしていたのか……。

 内心焦る気持ちを隠しながらも辺りを視線だけで探るように見回し、この場にこの令嬢しか居ないことを確認する。


 あんなに視線を送られていたのだからてっきり一緒に王子が居ると思っていたのだが……この訪問が最悪の事態ではなかったことにエラは少しばかり安堵する。


「まぁ、ごめんなさい。わたくし知らずに迷い込んでしまったようなの……あぁ、心配なさらないで。部屋には入っておりませんわ」


 王子と幼なじみであり、王宮に頻繁に出入りしているであろうご令嬢が迷った?

 ニッコリと少し憂鬱そうに微笑みを向けるクリスティアの言い訳に、当然だが納得が出来るはずはないのでエラは眉根を顰める。


「ふふっ。幼なじみといってもね、これだけ広いんですもの。子供の行く場所など限られているわ……こちらに来たのは初めてなの。部屋の場所を把握しているわたくしの侍女は休憩のために少し席を外しているものだから……強くなった日差しに日傘でもと思って、取りに戻ったつもりでここへと来てしまったの」

「……さようでございますか」

「扉は開いていたから触れただけよ」


 エラの疑いの眼差しを受けて自身の状況を淡々と語るクリスティア。

 癇癪でも起こせば一介のメイドなど納得せざるを得ないというのに……冷静にエラに自分の状況を伝えるのはもしエラがこのことを伯爵家へと報告するのならばクリスティアの言い分を伝えやすくするためか……。


 いいや、考えすぎだ。


 そもそも本当のことを言っているのかも分からないというのに……。


 どちらにせよ部屋の中に入ったわけでも覗いていたわけでもなさそうだとエラは納得した振りをする。

 本当にたまたま扉が開いて、もしくは扉を開こうとしたところでエラが来たのかもしれない。


 中を覗かれていないのならばそれでいい。

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