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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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とある伯爵家のメイド①

 それから五日ばかり経った頃、エラは伯爵家の幼いお嬢様の専属メイドとなっていた。


 あの日、エラが盗人の濡れ衣を着せられそうになった日。

 ジョイへの立ち回りを見ていた貴族達から予想以上の高評価をいただき、エラの仕事は休む暇もないほど忙しくなっていた。

 働いた貴族邸では軒並みこのまま此処で働かないかという数々の打診や噂を聞いた者達からは専属として雇いたいとの多くの手紙が送られ、その中にはあのランポール家の専属メイドにならないかという誘いもあった。


 だがエラがその破格の誘いを全て断り、この伯爵家のメイドとなったのは母であるロザリーの意向が大いに関係していた。

 それは伯爵家へと出仕を決めた前日。

 珍しく体調の良さそうなロザリーがエラを呼び出し今まで苦労をかけて申し訳なかったと頭を下げたのだ。


『マティス家があなたの仕事ぶりを評価してくれていている』


『懇意にしている伯爵家のお嬢様のメイドを是非ともあなたに任せたいと言っている』


『あなたの働きによってはもしかしたら伯爵家の方があなたに目を掛けてもっと大きな仕事を任せてくれるかもしれない』


『そしたらマティス家に認められて、見捨てられたお父様の名誉を回復出来るかもしれない』


 エラの両肩を掴んで訴える母親の切実なる願い。


 今までこういった住み込みの仕事を受けてはこなかったのはロザリーのことを全てエリサに任せることとなるので気が引けていたからなのだが……。

 母に乞われたとしてもエラがエリサを思い即答は出来ずにいれば、エリサも気にしなくて良いと。

 実は暫く前からエラが仕事をしている間にロザリーの様子を見に医者が来ているのだと。

 エラの仕事が忙しくて言うタイミングを逃していたけれども、この間のパーティーでエリサが祖父にロザリーの現状を話してから数々の慈悲を与えてくれていて、近頃はエリサが学校へ行っている間はメイドがロザリーの面倒も見てくれているので比較的自由に過ごせているとのことだった。


『お姉様、自分だけが負担ではなくなるなんて思わなくていいからやりたい仕事をして』


 そう言って背中を押してくれたエリサにエラは頷いたのだ。


 喜んで涙を流しながらも昔に戻ったかのように自分を想ってくれる母親の期待。


 パーティーへ出てからマティス家との関わりを深くするエリサ。


 そして仕事の忙しくなったエラ。


 あのパーティーの出来事でジョイのことを最初は恨んだエラだったが、今となってはあれが切っ掛けとなり良いことばかり起きているので少しばかり感謝してもいい気分だ。


 とはいえ本当は、メイドとして自由に主人を選べるのならば……自分を助けてくれたあの幼い少女の元へと出仕したかったけれども。

 ロザリーのその願いを叶えることがもしかするとこの先の更なる幸せに繋がるのかもしれないとそう信じて、エラは次の日にはマティス家の紹介状を持って伯爵家へと向かっていたのだ。


「やぁ、おはようエラ」

「おはようございますエドガー様」


 窓の外、古ぼけた離れの邸を見つめていたエラが伯爵家へと訪れて一週間、まあまあ充実した日々を送っていた。


 お嬢様は貴族の子供らしく不遜ではあったものの癇癪持ちではなかったのでメイド達に当たり散らすということはなく、平穏そのもの。

 エラも細かいところに気が利くのでお嬢様の機嫌を損ねることもなく、古参の使用人達からも重宝され、他の職場でもそうだったように上手く立ち回っていた。

 そして仕事にも慣れた最近ではこの伯爵家で特にエラを気に掛けてくれているのがエドガーであった。


 金色の髪に涼しげな水色の瞳、白いシャツにグレーのウエストコート、スラリとした紺色のズボンの足をこちらへと向けて歩いてくる優男は現侯爵代理でありこの伯爵家の長男でありながらも実に貴族らしくない男で。

 身分を厳格に区別し差別する伯爵家の中では珍しく、使用人達にも分け隔てなく接し気安く、人気者であった。


 マティス家のパーティーのときにエラがその場に居なかったことを証明してくれたのも彼で、こんな所で再会するとは思ってもいなかったエラは驚くと同時にお礼も言えずにいたので、結果として伯爵家へと来てエドガーにお礼が言えて、良かったと今では心から思っている。

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