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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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エラ・マティスの犠牲②

「お姉様、お母様は眠ってしまったわ」

「そう。エリサ、お疲れ様。今日はどうだった?大変ではなかった?」

「大丈夫、いつも通りだった」


 椅子に座ってエラの料理する姿をつまらなそうに見つめるエリサが今日のロザリーの様子を報告するのは父親が亡くなってからの日課だった。

 ロザリーはこの一週間で、病状がますます悪化していきティムが居ない怒りをエラに、寂しさと執着をエリサに向けるようになっていた。

 学園から帰る時間になってもエリサが帰って来ないとマティス家の庭や邸を彷徨うように探すようになってしまっていたのだ。


「ただ最近、頻繁にマティス邸に行ってるみたいなのよね。私が探しに行くといつもお父様の肖像画がある場所に居るの。使用人達から白い目で見られるから困るんだけどね……追い出されないだけマシだけど。そうだわ、実は今日商人達の話を聞いているときにお爺様に会って……二日後のパーティーに参加しないかって言われたの」

「そうなの?」


 マティス家の者達はロザリーを腫れ物のような扱いをしてはいるものの、侯爵家を恐れて邸に訪れても追い出したりはしなかった。

 ティム似のエリサはマティス家の血筋をその身に表しているせいかマティス夫妻は寛大で、逆に侯爵家に似たエラは長男ティムを奪った憎たらしい存在としてロザリーにぶつけられない憤りを特に子爵夫人からエラは度々ぶつけられていた。

 その格差は使用人達にも伝染し、エラはこの敷地に戻るといつも針のむしろにいるような気持ちになっていたが、家族の居るこのボロ邸がエラにとっての帰る場所であった。


「それでね、ドレスはご用意してくださるそうなのだけれど装飾品まではお願いできなくて……折角のパーティーなんだから綺麗にしていないと笑われてしまうってお母様がネックレスやイヤリングを選んだのだけれど全部お返ししたわ。ただあのバレッタはあまりにも綺麗だったからつい返しそびれてしまって……ごめんなさい」

「そうだったの、いいのよ。だったらうんと可愛くしないとね」

「ありがとうお姉様!私、絶対に王子様を捕まえてこんな生活から抜け出してやるんだから!」


 王子様なんて子供らしいと笑みを溢しながら、同年代の子と比べて制限された生活に鬱憤が溜まっているのかもしれないとエラは申し訳ない気持ちになる。


「エリサ……お母様のことだけど、私の仕事が終わる時間まで何処かの施設に預けても良いのよ?友達と放課後に遊んだり、あなただってしたいことがあるでしょう?」

「施設に預けるにしても遊ぶにしてもお金が必要なのよお姉様。私は働いてないんだから、お母様の面倒くらい見ないとね」


 せめて妹だけはこの生活から抜け出させてあげたい。


 まだ学生だというのに皆と遊んだりせずにすぐに帰ってロザリーの世話をしなければならないエリサ。

 ロザリーの現状やお金の面で施設に預けるなんて現実的ではないのは分かっている。

 だがこうして出来ないことでも出来る気になって話していれば気分が楽になるのだ。


 絵本にあるようなお姫様と王子様の物語のセオリー通りならば王子様は不遇なお姫様を選ぶのだからエリサは相応しいだろう。

 だからこそエラは願わずにはいられない。


(可愛いエリサ……どうか良い出会いがありますように)


 例え嫌われた自分が母親と共にこの邸に残されることになったとしても、エリサには幸せになって欲しい。

 いつか誰かが自分をなんてそう考えることを随分と前にエラは止めてしまった。

 お姫様に憧れるのには自身の現状を現実的に知りすぎてしまっている。

 舞踏会に参加すら出来ない自分ではどんな物語も始まらないと買ったキャベツを切りながらぼんやりと思うのはエリサが去ることを望むのは自分を嫌い、軽蔑する母親への一種の復讐心なのかもしれないと……。


「そうだわエリサ、西にある古ぼけた庭小屋辺りには近寄らないでね」

「?分かったわ」


 お姫様にはなれないのならばせめて誰かの悪役になりたい。


 ただ日々をあくせくと働くエキストラでしかない自分の存在に溜息を吐き、冬が終わり暖かい日差しを感じながら、確かにお姫様であった頃の父親との思い出を夢に見てエラは終わりの見えない今日という一日を終えるのだった。

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