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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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早朝の悲鳴②

「だ、だからって、こんな毎日、朝から走り込みする意味は、あるの?」

「クリスティー様にお仕えする使用人は常に完璧でなくてはなりません。勉学も然りですが特に武術においてはいついかなる時でもクリスティー様の身を己の身を持って守れるほどの反射神経と技量がなければなりません。傷一つお付けすること、いえ!クリスティー様がその場から逃げ動くことすらないように敵を制圧することがクリスティー様付きのメイドに求められる力量だと私は信じています!」

「無理に決まってるでしょ!」


 声高々に自分はそうありたいっとメイドとしての心構えというより自身の理想を途中から吐き出すルーシーに、ほぼほぼ騙されてメイドにさせられた身からすればそんな崇高な志を持って仕えられない、この身を投げ出してまで忠臣せよと言われたところで理不尽極まりない。


 アリアドネにとってアリアドネの身が当たり前だが一番可愛いのだ。


 クリスティアとて絶対、メイド稼業にそこまでの献身を求めていないはず。


「なんのためにメイドとして雇われてると思っているんですか!」

「借金返済のために決まってるでしょ!」


 それ以外ない。

 というかそれさえなければメイドになんてならなかった。


 今、アリアドネのお給金はほぼフォレスト家の借金返済に充てられている。

 例え暖かい家に食事を与えられ、お小遣い程度のお給金をもらっていたとしても。

 園丁として雇ってもらった父親であるミース・フォレストが今までとは考えられないくらい破格のお給金をもらっていたとしても。

 最近、クリスティアの母であるドリー・ランポールがアリアドネの母であるパシィ・フォレストをいたく気に入ったらしく、こんなお人好しで警戒心のない人間は見たことがないといって可愛がって頻繁にお茶に誘ってもらっていたとしても。


 今、その片鱗さえないとしてもいつ手のひらが返るのか分からないゲームでは悪逆非道の悪役令嬢のメイドになんて……。

 いや、よくよく考えれば良いことしかないなっという事実に思い至り、余裕でメイドになっていたかもしれないっとアリアドネは考えを改める。


 この苦行すら家族の平穏と比べれば安いものなのかもしれないが、主人を守るためにこの身を差し出せと言われても……そう易々とこの身は呈せない。


「そのような軟弱な考えでは皆に認めてもらえませんよ!」

「こんなことしなくても皆、私のこと可愛がってくれてるし!それにクリスティーにはクリスティーの護衛騎士が護って……!」

「お黙りなさい!!」


 怖っ!


 瞳孔開ききった顔で口答えは一切許さないとアリアドネを睨みつけ声を張り上げたルーシーにドン引く。

 使用人達の間でアリアドネに対して不満を表だって表す人なんていない、ルーシーだけだアリアドネにこんなに敵対心を持っているのは。


「クリスティー様はあなたの崇高なる主人です!敬称を忘れるなと申しているでしょう!それに皆が口に出さないだけで心ではあなたに不平不満を募らせているかもしれません!やれ小動物のようで可愛いだの、やれ下っ端の下っ端がやるような仕事を手伝ってくれて良い子だのと……私は騙されません!」


(絶対自分が一番不満持ってるじゃん!)


 クリスティアがアリアドネを褒めるたびに射殺しそうなほどの目で睨んでくるルーシーのその嫉妬心がスパルタという形で如実に表れている。


 だがこの不当な当てつけに文句でも言おうものならば50周だったランニングが100周200周になるのでアリアドネはそこは堅く、かたーーく口を閉じる。


「では次は素振りを……」

「ちょちょちょ!待って!待って待って!休憩!休憩させてよ!」


 たかだか50周のランニングをしただけだというのに本気か?


 早々に根を上げるアリアドネの体たらくに信じられないものを見るような眼差しを向けるルーシー。

 クリスティアのメイドとして訓練場200周は当たり前、訓練場とは言わずランポール邸の外周を200周してもいいくらいだというのに……。

 半分も走っていない50周で根を上げるとは。

 クリスティアのメイドになるということを随分と甘く見ているアリアドネのその弱り切った根性を叩き直さなければと自然と木刀を持つ手に力が入るルーシーの青筋浮かぶ掌を見て、現世だと体罰で即逮捕なのにこの国の法律はどうなっているんだと理不尽に振るわれそうなその木刀に怯える。


「まだ始まったばかりです」

「昨日まで10周だったのに今日いきなり50周走らされたんだよ!無理!限界!水飲まないと倒れちゃう!そのほうがクリスティーに迷惑がかかっちゃうでしょ!?」

「クリスティー様!」

「だって急には変えられないんだもん!」


 憐れな小動物のようにブルブル怯えてみせてはいるが、自分の意思を通そうとクリスティアの名前を出す辺りアリアドネも狡猾だ。

 主人の名を出されればクリスティアからも無理のないようにとの命を受けているので、悔しいがその要求を受け入れるしかないルーシーは溜息を吐く。

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