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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
262/626

ある戯曲

「これが恋だというのならばあの教会であなたに会いたい……!」


 小さな紙切れ開き、読み上げ、胸に抱えた麗しき貴族の令嬢が劇場の舞台、右手側にある二階のバルコニーから切なさを持って叫び、中央へと向かって手を伸ばす。


「あぁ!この身に纏う身分とはなんと愚かしいのでしょう!それでもわたくしはこの手紙を無視することはできないのです!」


 薄暗い照明が、差し込む月明かりのように苦しみ悩む彼女を照らし、そしてもう一人……その中央でテラスに立つ彼女を愛おしげに、だが同じだけ苦しそうに見上げている若い庭師の男が届かない手を伸ばしている様を照らしている。


 まだ身分という高い壁によって恋や愛に自由がなかった時代。

 許されないと分かっていながらも惹かれあう恋人達は秘密の手紙をブローチの中に隠し罪深い逢瀬を重ねる……そんな物語。


「私という者がありながら!なんと忌々しいことか!神は聖なる罰をお与えになることだろう!」


 だがそのブローチは彼女に懸想し、執着する婚約者の手に渡り……二人はすれ違い、苦しくも悲しい別れを覚悟し、涙を流す。


「恋をして愛し合わなければ……結婚など虚しいものにしかならない!」


 そしてクライマックスへ。


 どんな困難すらも乗り越え、変わらぬ想いを確かめ合った恋人達は自分達を謀り陥れた男へと刃を突きつける。

 決して揺らぐことのない愛を確信した二人を前にして、身分制の愚かさを悟った父親は時代が変わりつつあることを感じとり、二人の婚姻を許すと庭師に貴族の位を叙し、必ず娘を幸せにするようにと命ずる。

 この世界の全てであるかのようなスポットライトに照らされた恋人達は手と手を握り合って強く強く頷くと微笑み、その身を寄せ合う。


「ねぇ、知っていて?これは昔々にあった本当の物語だそうですわ」


 客席から誰かの秘密めいた囁き声が聞こえ舞台は暗転。


 喝采の拍手が鳴り響きながら全てが大団円へと向かった舞台は大盛況となり、若い娘達の心を掴んだ物語はカーテンコールが響く中で幕を下ろしたのだった。

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