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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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それはまるで……②

「それと公国の生け贄の件ですが、やはりデイジア様の事件以降に孤児院の子供が何名か行方不明となっておりましたが……調べがついた者達は皆、エット様が留学という形で国外へと逃がしていたようです」

「……そう」


 エットはあのとき、罪を告白するとき、あの『子供達』は私だったと言ったのだ……デイジアのことだけではなく複数の子達のことを……。


 それは幼い頃に自分達の身代わりとなった生け贄達のことだけではなく、デイジアの事件以降にも……もしかすると秘密裏に生け贄の儀式を行っていたのではないかとルーシーに調べさせたが、やはりとクリスティアは安堵するかのように天井を見上げる。


 心優しいエットならばそうしただろう。


 あの地下の部屋にあった燃えた資料は生け贄の儀式の復活を目論んでいたのだろうアーチを騙すために作られたエットのせめてもの抵抗だったのだ。

 閉じ込められながらもアーチがこれ以上の罪を犯さないために生け贄の番人として自ら生け贄の儀式の復活を提案し、選ばれた子供達を谷へと捧げたふりをしてエットは逃がしていたのだ。


 いつか生け贄を捧げていない真実をアーチに知られその罰を受けることになったとしても……ただ生け贄達の無事を願ったのだろう。


「良かったわ、本当に……」


 瞼を閉じながらクリスティアは憐れなアーチのことを思う。


 彼はきっと思ったはずだ。

 手足を切り落とした罰がエットの心に恐怖心を植え付けたのだと。


 次の生け贄になりたくないから別の生け贄を捧げて助かろうとするその卑怯さを嘲笑い、自分より遙かに優秀なエットを支配出来たのだと優越に浸っていたからこそ彼の細工に騙されたのだ。


 兄を凶行に駆り立てたのは間違いなく、優秀な弟こそが生かされるべき存在であるという嫉妬心と、生け贄となるべきだった不出来な自分の代わりとなった犠牲者達への罪悪感だったに違いないのだから。


「あとはこちらですが始めは十年前のラビュント紙、次いで八年前のギャゼ、五年前のラビュント紙、そして二ヶ月前のギャゼとラビュント紙の新聞記事の切り抜きでございます」


 それはエットがこの事件の探偵役にクリスティアを選んだ理由。


 クリスティアの名は他国に知れ渡っているものの彼女の渾名は赤い悪魔でもある。

 本当の人となりを知らないエットの後押しとなったのは誰か分からない差出人から送られたその新聞の切り抜きと共にあった手紙に書かれていたのは、自分達が生かされた双子であることを知っているということと秘密を知られたくないのならば必ず彼女の手を借りなさいという脅しに近い内容……そして添えられていたケイセイバナの花。


「ルーシー、この花の花言葉はご存じかしら?」

「深い思いやり……だったと思います」

「えぇ、そして……あなたのために何でもしますというものもあるのよ」


 机の上の花瓶の中で咲くケイセイバナはまるでこの事件へとクリスティアを誘い、謎解きをさせようとする送り主の心であるかのよう。

 その心にどういう意図があるのか……分からないクリスティアはただその謎めく花に込められた言葉を想い見つめる。


「一体……誰がわたくしを選んだのかしら」


 偉大なる名探偵へと挑戦する怪人のようなこの不可解な挑戦状。


 差出人不明の手紙はマーシェ家の遺言書でもそうだった。


 不可思議な類似点を訝しみながらも、それらにはクリスティアを貶めようだとか危険に晒そうだとかそういった悪意を感じることはなく、むしろ事件を必ず解決するだろうという信頼の込められた贈り物であるかのよう。


(その信頼に答えていけば……いつか辿り着けるのかしら)


 それが楽しみだというように、ふふっと小さく声を上げて笑んだクリスティアは……窓から見下ろす月を焦がれるような気持ちで見上げるのだった。

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