表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
260/627

それはまるで……①

「クリスティー様」


 ランポール邸の使用人達も寝静まった頃。

 バルコニーへと繋がる窓の下でサイドテーブルの明かりだけを灯し、深く椅子に身を沈め本を読んでいたクリスティアは音も無く現れたルーシーの声にゆっくりと顔を上げる。


「どう?彼女に不安な様子はあって?」

「昔から住んでいた邸かと思うくらいよくお眠りになられておりました」

「ふふっ、なら良かったわ」


 閉じた本をサイドテーブルへと置いたクリスティアはルーシーの呆れた声音の報告に安心したように笑む。


 なんの相談もなくアリアドネを家族ごとランポール家の邸の離れへと住まわせたクリスティアに、最初こそなにかあるのではないかと疑って警戒していた様子のアリアドネだったが……。

 ただただ美味しい食事をお腹いっぱいに食べ、隙間風のない家の暖かいベッドに入れば旅行の疲れもあり疑うことなどを忘れ一瞬で眠りについてしまったらしい。


 今回の推理勝負をアリアドネが仕掛けてきたことはクリスティアにとってまさに幸運だった。

 アリアドネが聖女であることはクリスティアとルーシー以外は知らないことであり、クリスティアはその事実をユーリにすら黙っている。

 しかしながらあのような貧乏生活を続けていればいつかその力が知られてしまうこともあるだろう。


 現にアリアドネはシナリオにあったという病気の少女をこっそりとその力で救っているようだとルーシーからの調査と報告を受けている。

 両親の優しさについてアリアドネはよく語っているが彼女もその気質を十分に引いて優しい性格だ。

 目の前で苦しんでいる人が居れば助けるためにその力を使うこともあるだろう。


 内緒だと力を使ったところで人の口に戸口は建てられない。

 多少無理矢理な方法でも使ってランポール家で彼女を保護出来ないかと思い、この旅行中に職に恵まれていないミースの会社を合法的に潰し(真っ黒な会社だったので容易かった)園丁として囲い込むことでなし崩し的に彼女自身も囲い込むつもりだったのだが……。


 アリアドネが自ら提案してきた推理勝負に勝つことで確実に逃げられない状況を作れたことは、クリスティアにとってはアリアドネの保護にも繋がり、良い契約も新たに結ぶことができるという幸運以外の何物でもなかった。


 クリスティアのことを悪役令嬢だと宣うアリアドネにとっては不幸以外の何物でもないのだろうが。


「フォレスト夫妻を案内したメイドによると彼女は水を極端に怖がるのだと言っていたそうです」

「水を?」

「日常的に使う水なら我慢ができるようですが、顔を洗うのも幼い頃は嫌がったと。今でもお風呂で湯船に浸かるのは駄目だそうで、いつもシャワーで済ませているそうです」


 浴室の場所をメイドが案内したときに、湯船には浸からないから出来れば浴槽は蓋をして隠して欲しいと申し訳なさそうにパシィに頼まれたそうだ。


 曰く、アリアドネは幼い頃から水を見ると火が付いたように泣き出したのだと。

 一度も溺れさせたり溺れたりしたことはないし、不便もあるだろうからとなんとか慣れさせようとしたのだけれどなにをしても無駄で……過呼吸になるほどのこともあったから克服することを諦めてしまったのだと。


「……良いようにしてあげて、彼女に不便がないように」


 それはきっとなにかのトラウマなのだ。


 アリアドネが文代の死を覚えていなかったことに起因するなにか……。


 クリスティアはその死が悔しむことのないものだったからこそ覚えていないのだとアリアドネを慰めたが逆に……その死が苦しみと後悔に溢れた死だったからこそ忘れているだけなのかもしれないと気付く。

 そしてその忘却は、水を恐れるという精神的な苦しみとなってアリアドネの表面上に現れているのかもしれないのだと。


 だってそう、美咲の死を覚えているクリスティアはその死を後悔トラウマにはしていないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ