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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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帰路⑤

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!雇ったって一体全体なんの話!?さっぱり分かんないんだけどっ!?」

「いやだわアドネちゃんったら照れちゃって!今日からクリスティーお嬢様の専属のメイドになったんでしょ?」

「えっ!?」


 初耳だ、初耳すぎる。


 誰が誰のメイドになったというのだと驚きクリスティアを見れば、あら?わたくし言い忘れていたかしら?っと惚けた様子で小首を傾げたクリスティアはアリアドネの疑問全てを聞こえないふりをしてそのままミースとパシィを見る。


「お父様お母様、離れでの住み心地はいかがですか?ご不便などはございません?」

「不便だなんて!とんでもございませんお嬢様!」

「そうです!広すぎて何処に居ればいいのか分からないくらいですわ!」


 離れの邸ってなに!?

 怖い怖い怖い怖い!!


 どんどんとアリアドネの知らない情報がクリスティアの口から出てくることに恐怖を感じる。

 聞きたいけど聞きたくない、でも聞かなければ……この疑問は先の生活に繋がっているのだからとアリアドネは振り絞るように震えた声を出す。


「は、離れって?」

「それがねアドネちゃんが旅行に行ってからすぐにお父さんの会社が潰れてしまったの。もうお家賃もお支払い出来ないし路頭に迷うしかないって本当に困っていたときこちらのお邸の執事様がいらっしゃって……丁度お邸の園丁さんが定年でお辞めになるから是非住み込みで働きませんかってお声をおかけしてくださったの。私もね、不思議に思ったのよ。どうして私達のことを知っているのかな?って……だからね不躾ながらお聞きしたらお嬢様が直接お父さんのことをご紹介してくださったみたいなの!」

「アドネ、お父さんは知らなかったよ……アドネが僕達のために旅行が終われば借金の形としてお嬢様のメイドになると決めていたことを……それをなんの得にもならないお嬢様が了承してくださったことを……不甲斐ない父親で申し訳なさが込み上げていればお嬢様からアドネのことはメイドとしてではなく友人として側に居てもらうつもりだからどうぞ安心してくださいと、それでも年若い子が貴族の邸に出入りすることに不安もあるだろうから是非住み込みで働いて欲しいと心優しい言伝を頂いたんだ!」

「私達のこともね、友人の両親だから格別のご厚意を持って接するようにと皆様におっしゃってくださって……離れにある大きなお邸に住まわせてもらってるの」

「まぁ、そのように感謝をされますとわたくしお恥ずかしいですわ。園丁の件は後任がおらずに本当に困っておりましたからわたくし達こそ助かっております。アリアドネさんのことは大切なお嬢様をお預かりするのですからご心配のないように配慮することは友人として当然のことですわ」

「「お嬢様!」」


 クリスティアの慈悲深い心に感極まって泣き出した両親に、その全てが初耳のアリアドネはこの置いてけぼりにされている気持ちはどうすればいいのかと頭を抱える。

 きっと両親は執事やメイド、園丁の仕事仲間達から悪魔の囁きのように少しずつクリスティアの慈悲深き優しさが如何に素晴らしいかを吹き込まれていったのだろう……完了しているらしい洗脳によって一体どんな対価があるのかも分からない契約を両親は慈悲と信じ、疑わずに結んでしまったのだ。


 その対価を支払うのはアリアドネだというのに……。


 祭り上げられるべくして祭り上げられているクリスティアに、その心になにを隠しているのか分からないのだから騙されないでくれとアリアドネが叫んだところで……意味が無いことは感激している両親を見れば分かりきっていると。

 常日頃からあなた達は騙されやすいのだから人の話はよく聞きなさいと口酸っぱく言ってきているというのに……聞いたところで騙されているのだから意味が無いことをアリアドネは心の底から理解する。


「アドネ、お前はなんていいご友人を持ったんだ!お嬢様は女神様だ!」

「借金を返し終わっても一生お仕えするのよ!」


 陥落してしまった両親の後ろに立ったルーシーが新たに発行された奴隷契約書という名の借用書を掲げて見せる。

 その借用書の下にはクリスティア・ランポールの名が堂々と刻まれており……万事順調に借金取りから買い取られたらしいそれにアリアドネは言葉もなく震える指で指し示すとクリスティアを見る。


「お約束した通り、いつ如何なる時でもわたくしの側に居てくださいませねアリアドネさん?」


 勝負はついたのだからとそれはそれは満足げな表情で微笑んだクリスティアに追随する、そうだしっかりお守りしろ、絶対離れてはダメよという両親の声援。

 更に馬車から降ろされるお土産の人形や洋服やらの数々に……。

 アリアドネが渡したブローチなんてものは賄賂にもならなかったことを悟る。


 一体いつからこの結末を描いていたのかは分からないが、最初から負けていた勝負にそれはそれは深い墓穴を自分で掘ったらしいことに気付いたアリアドネはこの悔しい気持ちを抱えながら天を仰ぐ。


「精一杯務めさせていただきますっ!」


 家族の平穏さえ握られてしまったのだ。

 見上げた先の一番星に拒否権を祈ったところで叶わない。


 今日この日より悪役令嬢クリスティア・ランポールはヒロインであるアリアドネ・フォレストの正式なるご主人様となったのだ。

 周りがクリスティアの優しさに感涙している中で、穏やかな幸せの中をただただバッドエンディングにならないように賢明に生きてきた少女はこれから先に訪れるであろう綱渡りのような人生に絶望の涙を流す。


(神などいない!!!!)


 心の中で天に叫んだ言葉は無情にも……そのままアリアドネへと降り注いでくるのだった。

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