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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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帰路④

「ちょ、ちょっと!何処に行くのよ!?」


 窓へと頬をへばりつかせて過ぎ去っていく我が家への道を視線だけで追いかけながら右へと駆けていく馬車。

 街中へとそのままぐんぐんと進んで行く馬車に慌てて止めるよう御者に訴えようとアリアドネは叫ぶ……が、その声は届かず馬車は突き進んでいく。


「なんで止まんないの!止まってってば!」


 クリスティアの軽いノックの音や蚊の鳴くような声は届くというのに何故アリアドネの絶叫は御者に届かないのか……。


 いや、愚問だ。

 届かないのではない。

 届いているが無視しているのだ。


 そしてそう御者命じたのであろう前に座る人物を先程までの優しさは何処へいったのかとアリアドネは訴えかけるように見る。


「ねぇ、クリスティー!止めてよ!私の家、こっちじゃないってば!」

「ご安心なさってこちらで間違いなくってよ」

「ど、どういうこと?」

「………………」


 ニッコリ笑んだクリスティアのその得体の知れない笑みと共に訪れた沈黙に、不気味さを感じたアリアドネも黙り込む。


 契約事項の譲歩をしろだなんて調子に乗ったから怒ったのだろうか。


 何処に連れて行かれるか分からないが楽しい気分の遠回りではないことは緊張感のある(アリアドネが勝手にそう感じているだけ)馬車内の雰囲気で察する。

 そして暫く走った馬車は大きな門を通り、それはそれは広い庭を通って大きな邸の前へと到着する。


「此処どこ……?」

「わたくしの邸ですわ」

「なんで!?」


 開かれた馬車の扉の先では先に到着していたエルが(ユーリと競い勝利したらしく、ユーリは肩で息をしながら隣に立っている)その横に立ち待っていたクリスティアへと手を差し出す。

 その手を当たり前のように取り、アリアドネを少しだけ振り返り見て馬車から降りていくクリスティアの意味深長に笑んだ姿はスポットライトの当たる輝かしい舞台へと向かっていく女優のよう。

 そんな輝かしく去らないでいいからもう一度戻ってきてこの状況についての説明をしてくれないだろうか。


 意味が分からなすぎて外へと出られないアリアドネを咳払いを持って早く出ろと促す御者にこのまま籠城するわけにもいかず……。

 貴族のご令嬢のような扱いに慣れない気持ちでその御者の手を取り恐る恐ると馬車を降りれば、地面に足が付いたと同時に突進してくるように抱き締めてきた固まりにアリアドネは驚く。


「アドネちゃん!」

「お、お母さん!?」


 あまりの勢いに猛獣でもぶつかって来たのかと思った。

 なんとか足を踏ん張り転ぶことはなかったものの自分を抱き締める固まりを誰かと思い見れば、それは少しばかり小綺麗になっているアリアドネの母親、パシィの姿で驚く。


「ちょっとなんでここに……!?てかなんか綺麗じゃない!?」

「アドネちゃんいつの間にそんなお話になっていたの?お母さん驚いたわ!」


 うるうると瞳を潤ませて抱き締めていた体を離しアリアドネの頬を感激した様子で両手で挟むパシィ。

 なんの話をしているのか、何故パシィが此処に居るのかアリアドネにはさっぱり分からない。

 分からないが、そのボロを纏っていない小綺麗な姿に良い予感はしない。


 取り敢えず詳しい説明を聞こうとすれば、その仲睦まじい様子を微笑ましいげな様子で見つめるクリスティアの視線に気が付いたパシィが恥ずかしそうにその身を離すと隣に居たミース共々頭を下げる。


「あっ、ごめんなさいお嬢様もいらっしゃったのに私ったらはしゃいでしまって」

「お嬢様、この度は感謝してもしきれません。ありがとうございます」

「まぁ、お母様お父様。そのように畏まらないでくださいませ。わたくしそのようなつもりでアリアドネさんをお雇いになったのではございませんわ。わたくしの数少ないご友人が困っていらっしゃるのですからただただお力をお貸しできればと思っただけのことです。気を遣われてしまってわ逆に申し訳がございません。どうぞ今まで通り気軽になさって」


 今聞き捨てならないことをクリスティアが言っていた。


 雇う?


 雇うってなんの話だ?


 身に覚えのない単語を当たり前のように口にする両親とクリスティアに、意味が分からなすぎてアリアドネは混乱する。

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