帰路①
一週間後、クリスティア達は新しい友人達と共にディオスクーロイ公国の祭りと街を十分に楽しんで帰宅の途についた。
アチェットとはどんな罪であれ法がその裁きを下せるように法を改正し、犯罪を解決するための警察や検察組織の結成などの支援を約束し、この先も続くラビュリントス王国との末永い同盟を力強い握手を持って誓った。
「あーーあ、私はとんだピエロだったってわけね」
ディオスクーロイ公国からラビュリントス王国に戻ってきた馬車の中でアリアドネはずっとこの調子で不満を口にしている。
事件のときに起きたと騒いでいた雪崩は実際には起きておらず、皆を閉じ込めるためクリスティアがルーシーに吐かせた嘘で……ルーシーを城へと連れて行かなかったのは最初から雪崩の嘘に信憑性を持たせるためと電話を不通にするための妨害工作を城の周りに仕込ませるためだったのだ。
この事件は最初から全てクリスティアの手の内だった。
なにが推理勝負だ調子に乗って恥ずかしい……。
家が近付くにつれて待ち受ける現実にアリアドネの気分は憂鬱に沈んでいく。
そう、この事件で新たなる奴隷契約事項が追加されてしまったのだ。
なんとか無かったことには出来ないか……無駄な抵抗だとは分かりつつも事件を主導して全てを知っていたクリスティアの非をアリアドネは責めてみる。
「卑怯よ!最初から知っていて勝負を受けるなんて!八百長よ八百長!」
「まぁ、それをおっしゃるならあなたこそ。なにも知らないふりをしていましたけれどこの事件はあなたのいうゲームのシナリオでしたのでしょう?」
新規奴隷契約事項の破棄を引き出そうと思ったのに思いもよらない反撃を受けて、ぎくっと肩を揺らしたアリアドネは何故知っているのかとクリスティアを驚きの表情で見つめる。
「な、なんで分かったの!?」
「あの状況で推理勝負を仕掛けてくるなんて余程自信があってのこと……遺体を見てショックを受けるくらいには事件に慣れているわけではない素人のあなたの強みは前世のゲームとこの世界が同じであると信じていることでしょうから、同じシナリオの事件があったのだと考えるのが妥当かと」
演出家として全て知っていたということが卑怯だというのならば、観客としてそのシナリオを知っていることもまた卑怯なのではないか。
ぐうの音も出ないクリスティアの反論にアリアドネは項垂れる。
「でもでもちょっと内容は違ってたのよ?それにあれはアリアドネの糸じゃなくてペルセポネの実の内容だったし……」
「ですが内容を知っていたということに変わりはないでしょう?それにあなたがわたくしの真意を知り、わたくしが犯人であることを当て、見事事件を解決してくださったのなら……わたくしとて素直に負けを認め契約書を破棄いたしましたわ」
「うぅぅ!もう嫌!今回のことで前世の記憶なんて全く意味が無いって思い知ったわ!」
なにを言ったところで結局のところ事件を解決出来なかったアリアドネの完敗でしかない。
ゲームを信じて一人だけを犯人だと選んで示した己の浅はかさと恥ずかしさに頭を抱え呻る。
よくよく考えれば分かることだ。
証拠を選んで犯人を選択できるということはその全員が犯人である証拠があるということではないか。
ゲームシステムに囚われ過ぎて失念していた事実を結果としてクリスティアに良いように利用されたアリアドネは帰る前にアントには犯人扱いしてすいませんでしたと深く深く頭を下げて謝った。
しょんぼりするアリアドネの肩を落とした姿は大いに笑われ大いにからかわれたが……男気ある男はあの場に居る皆を守るためなら喜んで犯人になるつもりだったから構わないと、逆に選んでくれてありがとうとお礼を言われてしまったのだ。
その寛大さに地中深く掘った穴があるのならばアリアドネは心の底から入りたかった。