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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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舞台の終わり

「では皆様」


 涙に暮れる皆の再会の喜びであり離別の悲しみを遮るようにクリスティアが声を上げ一同を見回す。


「わたくしのこの舞台、大変楽しんで頂けたことでしょう。わたくしとしましては折角の皆様の再会に水を差すような真似はいたしません。これは全て偽り、祭りの日の幻です。離れていた者達の再会も、公的に存在しない者の死も……全ては生け贄を捧げていた時代に置き忘れてきた夢物語。罪はわたくしの舞台の終焉と共に皆様の胸の奥深くに幾ばくかの余韻として残すべきことです」


 双子でありながら隠され続けた存在の死。

 今も尚、隠され続ける死……。


 ではこの先も隠されることになんの罪悪があるだろうかと告げるクリスティアにエットは驚き、その少女を見上げる。


「それは……!」

「勿論、亡くなることとなってしまった憐れなる者の魂には安らかなる眠りと祈りを捧げることを願います。そうすればきっと悲しみで眠れぬ夜を薬に頼るような、苦しみをお酒で紛らわせるようなことにはならないでしょう。わたくしは……この喜ばしき再会を沈黙を持って祝すつもりです。ストロング公、あの玄関の間の肖像画はどうぞお外しになることをおすすめいたします。わたくしのように聡い者が見れば気が付くこともございましょうから」


 そう穏やかに告げるクリスティアにエットは俯きメアリーの手を強く握る。

 公国の主としてこの罪を全て明らかにし、罰を受けるつもりだった。

 けれどもそれはヘレナの罪をも明らかにすること……どうすればいいのか分からない戸惑いの中にいるエットに溜息を吐いたユーリが口を開く。


「さぁ、なんのことかさっぱり分からないな。此度のことは君とストロング公が仕組んだ悪趣味な余興だと思っているのだが」

「そうですね、義姉さんはたまに度が過ぎる演出をなさいますから。付き合わせれたストロング公が憐れでなりません」


 公国の主を殺したなんて冗談、全く以て肝が冷えた。

 こんな冗談は二度と御免だ。


 クリスティアを見て不満はないと肩を竦めて惚けるユーリに、義姉のすることに反対などあるはずのないエルは笑んで、アリアドネは勿論賛成だと言うように何度も頷く。


「まぁ、楽しんでいただけたのならわたくしとしましては幸いですわ」


 部外者であるラビュリントス王国の者達は全員クリスティアに頷いたのだ……後は全てディオスクーロイ公国の者達で決めるようにと……。

 その選択に感謝をするエットは……いや、アチェットは……その心がどうぞ許されますようにと願い伸ばされた家族と抱き合うデイジアの手を見つめる。


 その手を掴むべきか逡巡するアチェットの腕へとメアリーの手が触れ、誘うように共に伸ばす。


 これでやっと終わるのだ。


 あの地下の部屋を片付け、二度と開かないよう扉を閉じ、憐れみ、悔しみ、安堵したあの片割れの死を決して忘れないように日の当たる場所へと墓標を建てよう。

 そうしてこの舞台を誰にも知られずに閉じようと涙を流しながらメアリーと共にアチェットはその手を掴む。


「生きていてくれてありがとう、本当にありがとう!」


 彼女達を逃した二十年という月日は、彼女達の無事を願い続けた長い月日でもあった。


 何度も何度も感謝を口にするアチェットのその光景を眦に涙を溜めて見つめていたリンダがクリスティアへと向き直り、深く深く頭を下げる。


「あなたに全てを暴いていただいて良かったわ……本当にありがとう」

「いいえ、きっとわたくしの敬愛する探偵もおっしゃることでしょう。この舞台からわたくしという存在が退場させていただくことを名誉と存ずると」


 その感謝を受け取り、胸に手を当ててお辞儀を返したクリスティアの緋色の瞳にはこれから先、どんな困難に遭おうとも打ちひしぐことなく乗り越えていくのだろう幸せな家族の姿が眩しく映っていた。

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