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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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そして二人は一人になった②

「それからは兄の言う通りほとんど地下からは出ない生活をしました。私と外を繋ぐのは地下の部屋にある魔法道具から聞こえる声と兄から定期的に与えたれる僅かな仕事だけでした……けれど一年前、魔法道具で外の音を聞いていたときです、なにか揉めるような声が赤の遊戯室から聞こえてきました。それはアーチの酷く興奮しているようなそんな声音だったので私は不安に駆られて秘密の通路から急いで遊戯室の覗き穴から部屋を覗きに行きました……それで……そこに……」

「お兄様がお倒れになられていたのですね」


 誘拐事件があってから祭りの日のパーティーは無くなりいつしかアーデン夫妻の追悼の場へとなっていた。

 それは当事者であるアーチの心を恐怖で荒ませ、酒を飲む量を増やし、隠された罪悪感の箍がいつ外れてもおかしくない状況だった。


 そしてとうとう一年前のあの日、箍は外れ……事件は起きるべくして起きたのだ。


 ヘレナを見て言い淀むのはその胸に深い後悔があるからだろう。

 クリスティアがそんなエットの代わりにその言葉を受け取り吐き出せば……エットは弱々しく頷く。


 覗き穴を覗いた小さな穴の先で姿見に映るように自分と同じ顔が赤く赤く割れていたのだ。

 首に、胸に、腹に、腕に、割れて、這って、ひび割れているかのように流れる血の赤……。


 お前は僕という蜘蛛の腹に納まっている糸にすぎないのだから余計なことはするなと瞼を見開いたまま動かないアーチがいつの日にか言っていた言葉を思い出しながらエットはその瞬間、その腹を食い破って糸から蜘蛛になるしかなかった。


「すぐになにが起きたのかは理解しました。私は地下の部屋でヘレナ夫人の声を聞いていましたから……きっと真実を知ってしまったのだ、アーチは罪の代償を支払ったのだ、だったら私はその罪を隠さなければ……彼女の罪を暴くことは兄の罪も……このストロング家の罪をも暴くことになってしまう、今まで守り続けていた秘密を守らなければ……いいや、違う!私は一人になってしまったのだ、この罪が全て暴かれてこの罰が全て私に向かうことが怖かったのです!」

「だからあなたがお兄様に成り代わった」

「……私はそうするしかないのだと言い聞かせ兄を地下へと隠したあと、兄のふりをして皆さんの前に姿を現しました。そして暫くしてから……谷に兄を落としました。兄に怯え真実に口を閉ざし罪から逃げ続ける私は今日この日ですら殺されるわけにはいかなかったのです!」


 そして二人は一人になったのだ。


 真実を知ったヘレナが復讐を遂げるために再び自分を狙うことは容易に想像が出来た。

 そしてそれがデイジアの行方不明になった日になることも……。

 いっそのことその計画を完膚なきまでに阻止すれば復讐を諦めてくれるのではないかとそう思ってエットは罪を暴くことならば他国にすらその名が轟いているクリスティアに手紙を送ったのだ……興味を持たれるように自分の殺害を阻止してくれという内容で。


「じゃあ、地下にあったあの血塗れのカーペットは……」

「……兄のものです」


 デイジアの血では無かったのだ。

 それにレータが心からの安堵の溜息を吐く。


 深く深く雪に埋めることしか出来なかったその全ての罪を背負った憐れな君主は今、全てを話すことが出来て……少しはその心が楽になれたのだろうか。


「地下の……地下のその部屋にリボンがございました」

「デイジアの……デイジアのリボンだわ!」


 カーペットの血がデイジアのものではないと分かりレータが薄汚れたリボンをポケットから取り出す。


 それはレータが贈った思い出のリボンだった。


 自分を助けてくれた恩人の家族の教師として働くこととなった記念に仲良くなれるようにと送ったリボンで……それはデイジアのお気に入りとなって特別な日にはいつも使っていた。

 レータがデイジアのリボンだと分かったのはそれがレータにとっても特別な物だったからだ。


「いつか……いつかお返し出来たらと思って取っておいたのです」


 二十年経っても忘れない。


 確かにこの城にデイジアが居たのだ。


 そして今、漸くその欠片を見付けたのだ……。

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