デイジア・アーデンの悲劇②
「去年の祭りのときだ……私は先に部屋へと戻りヘレナは憂鬱な気持ちを忘れたくて一人で遊戯室で軽くお酒を飲んでいたそうだ。そのときに酔った公が現れたので色々と話をしていたときに何かのきっかけでデイジアが居なくなった日の話になったそうだ。そしてそのとき、ヘレナはデイジアが持っていた小さなクマの人形の話を公からされたそうだ」
「あれは居なくなる前に行った祭りで私が買い与えた人形でした!あの子はそれを生まれてくる妹にあげるのだと!無くさないようにエナが生まれるまで大切に守っておくのだとポケットに入れておりました!あの子はそれを一緒に遊んでいた友人達にも見せていなかったのです!知っているのは私とデイジア、そしてデイジアを誘拐した犯人しかいないのです!だから私は問い詰めました!人形をのことをどうして知っているのかと!誰も知らないはずなのにそのクマの色が黄色であることを何故知っているのかと!そしたらあなたは!あなたは笑って!なんだバレたかって!谷へ落とす生け贄はもう双子である必要はないだろうと!寂しさが埋まればそれで良いのだと!だから私は!私はっ!!」
「……公を……殺したのですね」
先に襲ったのはどちらかだったかなんて覚えていない。
アチェットを睨みつけて先の言葉を続けられず胸を押さえて蹲るヘレナにルドルは慌ててその背を擦る。
代わりにその言葉を受け取ったクリスティアが言葉を紡げば……アチェットも何故知っているのかと言わんばかりに驚いた表情で瞼を見開く。
「そうですわね?」
「えぇ、えぇ!そうです!気付いたときには手に割れたワインの瓶を持って立っておりました!床にはワインに濡れた公が倒れていて!私は!私は恐ろしくなって逃げ出し部屋へと戻ってルドルに殺してしまったと!あの男がデイジアを私から奪ったのだと!私、私どうすればいいのかと……!私はどうなってもいいのです!でもエナは私の子は……私が一国の主を殺したとなれば関係ないあの子まで責めを受けてしまう!!」
「ヘレナの話を聞いて、彼女をレータに預けた私はスターマンと共に遊戯室へと向かった。もし本当に公が死んでいたのならばなにか他の方法で公の死因を隠そうと思ったからだ……だがそこに公の姿は無く。スターマンが探せば彼は自分の執務室におり怪我一つ無い姿で私達の前に現れたのだ」
「血が!血があんなに出ていたのに!確かに!確かに殺したはずなのです!なのに!何故あなたは生きているの!!」
それがワインの色だったのか血の色だったのかはヘレナには分からない。
気が動転していたのは確かだったからだ。
けれども見開かれた瞼に生気はなく薄く開かれた唇からは呼吸を感じられなかった。
殺したのだと思った。
デイジアの復讐を遂げられたのだと。
心の何処かで罪に問われたとしても安堵した気持ちがあった。
けれども平然としたアチェットの姿を見て……殺したとき以上の憎しみが湧き上がり、気付いたときには殺したはずなのに何故生きているのかと叫んで掴みかかり他の使用人達に取り押さえられていた。
ヘレナはその瞬間、決意したのだ。
一年後の今日、必ずデイジアの復讐を遂げてみせると。
忘れることも癒えることもなかったこの二十年の悲しみと苦しみの代償を必ずあの男に支払わせてやるのだと。
ヘレナもルドルも……この場に居る皆がそう誓い。
今日、悲しき復讐者達は全てを終わらせるためにこの城へと集まったのだ。