冬を告げた手紙①
「一体、一体なんの茶番だ!こんな!君達は皆知っていたのか!?」
ルドルが立ち尽くすアチェットの姿を見て驚愕し、怒り、憎しみの籠もった眼差しで見つめ怒鳴る。
死んだと言っていたのに自分達を騙していたのか!
なにが楽しくてこんな趣味の悪い演劇を開幕させたのか!
ユーリをエルをアリアドネをクリスティアを……睨みつけ責めるルドルにユーリも戸惑う。
「い、いえ私達もなにが起きているのか……」
「どうぞ殿下達を責めないでください。この事実を知るのはわたくしとわたくしの侍女であるルーシーとそして公だけですわ」
ユーリ達はなにも知らなかったのだ。
責められるべきは大筋を描いた自分にあるとクリスティアはルドルの責めを遮る。
「しかし確かに公の脈はなかったはずだが……」
「申し訳ございませんユーリ殿下、私の左腕は義手なのです」
試しにと右手で左腕を取り外して見せるアチェットに誰もが皆驚く。
この国に居る誰も気付いていなかったのだ、この国の主の左腕が義手であるということに。
ならばその腕に脈がないのは当然のこと。
とても精巧に作られた魔法道具であり、一見しただけでは誰も違いが分からないそれはクリスティアがこの日のために魔具師であるエヴァン・スカーレットに特注して作ってもらった最新式の義手だ。
ということはやはりあの秘密の通路の先にあった部屋の義手はチェットの物であり、アチェットはあの秘密の部屋にそう昔ではない頃に出入りしていたのだ。
「どうぞ皆様、このような茶番劇にお怒りはご尤もでございます。わたくしも犯罪を暴くことはあっても犯罪を犯す機会はそう無いものですから……楽しくなったものでつい力が入ってしまいやり過ぎてしまったなと反省をしております。ですがわたくしはこれから先に起こるはずの不幸を……悲劇を止めるためにこのような演出をさせていただきました」
あまり悪びれてはいない様子で深く頭を下げたクリスティア。
確かにあのアチェットの遺体はやり過ぎ以外の何物でも無いだろう。
これから先、ふっとした瞬間にでも思い出して恐怖しそうな遺体の様相に……あれが偽物だったと安堵すると同時に、なんてトラウマを植え付けてくれるんだと遺体を見た者達は不満に思う。
一体なにをしたくてクリスティアはこんなことを画策したのか。
ずっと居住まいを正したまま強張った表情でその真意を探ろうとしているリンダは対峙するかのように緋色の瞳を見つめる。
「一体、どうしてあなたはこのようなことをなさったのかしら?」
「数日前のお話しです、わたくし宛てに公から手紙が送られてまいりました。その手紙にはこう書かれておりましたわ、次のディオスクーロイ公国で開かれる双子祭りの日に自分は殺されるだろうと……そして出来ればその殺人を内密に阻止して欲しいと」
「殺されるとは一体……」
一国の君主の殺害予告なんて穏やかではない。
しかもアチェットはそれを知っており、身を守るための警邏隊や騎士に護衛を頼むではなく、解決をクリスティアに頼んだのだ。
結果としてはこうしてアチェットは生きているのだから阻止は出来たのだろうが……その褒められはしない方法に、危うく殺人犯人にさせられそうだったせいか不服たっぷりの表情を浮かべたアントがアチェットを睨みつける。