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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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探偵アリアドネ・フォレスト①

 青の貴賓室へと戻ってきた四人に一斉に注がれる視線。

 青白い顔のレータをジョーズが気遣うように椅子へと座らせればそれを見たアントが怒鳴りながら立ち上がる。


「おい!一体なにをしてたんだ!」


 掌をきつく握り締め視線で射殺しそうなほどにアントに睨みつけられたジョーズはしかしながらその視線を意に介さず、頭を下げて部屋を辞する。

 騎士に身を置く者としてたかだか商人一人の視線に怯むジョーズではない。


「お待たせしてしまって申し訳ございません。実はお聞きしたアリバイの確認のために皆様のいらした部屋の確認をさせていただいておりました」

「なっ!?」


 クリスティアのさして悪いと思っていなさそうな謝罪に一気にざわめきが巻き起きる。


「私達の部屋を覗いたのか!貴様!なんの権利があって!」


 ルドルが立ち上がり叫ぶと、


「不愉快だわ!人を殺人犯人のように!わたくしの主人が生きていたらすぐにでも法的措置を取っているところよ!」


 リンダが座ったまま激高し、


「部屋に居なくて正解だったな、まさかこんなときに泥棒みたいな真似をする奴が現れるなんて!」


 アントが嫌悪の表情を隠さずに顕にする。


「ルーシー」


 あちらこちらから湧き上がる非難轟々を浴びながらクリスティアは平然と自身の侍女の名を呼ぶと、ルーシーは頷きパンッと青の貴賓室に響き渡るほどの大きな音で両手を叩き合わせる。


「お黙りになって皆様。騒がしいですわ」


 まるで花火が破裂したかのような不意打ちの音に皆が体をビクリと震わせて黙る。

 その静寂に合わせて、しぃーーっと人差し指を唇に当てたクリスティアは続く静寂を促す。


 その緋色の瞳の奥には普通の少女からは感じるはずのない圧倒的な威圧感が漂い、皆たじろぎ誰もがその唇を閉じる。


「勝手をしたことは申し訳ございません、謝罪をいたします。ですが遅かれ早かれ警邏隊が同じ事をされるかと思いますので……荒らさずに見るだけに留めただけましかと。それにわたくしが見ることに非難があるということはなにか心にやましさがあるのだと邪推してしまって……無用な疑いを持ってしまいますわ」


 頬に手を当てて悩むような仕草で一同を視線だけで見回すクリスティアにそう言われてしまえば誰もなにも言えずに口を噤む。

 下手に不満を口にして殺人犯人だという疑いを持たれたくないのだ。


「各々勝手をされたことに不満はございましょう。ですがご協力いただけたお陰で公を殺した殺人犯人が分かりましたわ」


 誰もご協力をした覚えは一切ないのだが……。


 そんな一同が不満を飲み込んだ気配が、一瞬にして緊張感のあるものへと変容する。

 まさか部屋を見ただけで殺人犯人が分かるわけがないと期待はしていなかったというのに……。

 皆が皆、互いの顔を焦りや不安の表情を浮かべて見回すと示し合わせたかのように口を開く。


「本当なのか?」

「一体誰が!」

「まさかこの中に本当に?」

「信じられません!」


 クリスティアの視線に怯んでいたせいか少しばかりの白々しさがあるものの一様に驚きの声が上がる。

 その観客達の声に満足したようにクリスティアは笑むと更に口を開く。


「えぇ、皆様どうぞご期待下さい。このアリアドネ・フォレストが今から素晴らしい推理をご覧に入れましょう」

「えっ!?」


 まるで自分がこの殺人事件の推理を披露しそうな勢いだったというのに……。


 急に背中を押されクリスティアの前に出されたアリアドネは突然の紹介に驚く。


 確かに自分から先に推理の披露をしたいと言ったけれどもこんな風に急に紹介するなんて……一気に集まる皆の視線に緊張をするように身を固くしたアリアドネだったが、こんなところで怖じ気づくヒロインではないっと奮い立たせるように一つ深い深呼吸をする。


(落ち着くのよ、これはチュートリアル!)


 一番最初の、難解ではない事件。


 証拠は押さているのだからあとはシナリオに従って間違えず謎を解けばアリアドネの勝利は確実であるのだからと、自信を持って胸を張る。

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