地下の部屋④
「っ……!」
震える手でそれを握り見つめるレータは瞼を見開きゆっくりと、怯えるようにカーペットを見つめ……震える唇を開く。
「あ、あの……あの……!その血液の量からして子供か流したものかどうかはお分かりになられませんか!?」
胸にリボンを抱え縋るような眼差しでジョーズを見つめるレータ。
その真剣な眼差しに気圧されながらもジョーズは首を左右に振る。
「血液の量だけでは子供か大人かは判断出来ません……なにかお心当たりでもありますか?」
「こ、こちらがベットに……デイジア様のリボンでございます」
差し出すように掌を開いて見せたレータの手には小さく白い花の刺繍が施された赤いリボンが揺らめいている。
そのどうか間違いであってくれと望み、強く握りしめられた揺らめきを見つめた皆は誰も言葉を発することが出来ず、沈黙する。
その沈黙に……レータが絶望の表情を色濃く浮かべる。
「私は、私はアーデンご夫妻になんと申せば……!」
「落ち着いて下さい、私の印象なだけでまだこれが本当に人の血かどうかは分かりません。それにそのリボンだけではその少女の血かどうかは分からないでしょう?伝えるにしてもきちんと調べてからのほうが良いことです」
「うぅっ……!」
とはいえDNA鑑定のない世界でただ一人、なにかを知っていたであろう人物は今日遺体で発見されたのだ……。
調べたところでこの地下の部屋でなにが起きたのかを正確に知る術が無いことは誰もが分かりきっていることだった。
分かりきっていることだからこそ……何十年と娘を想い待ち続けているアーデン夫妻のことを思えば、遺体があったわけではないのだから無闇にこの血液のことを伝えることは僅かな希望を打ち砕くことになりかねないのでその口を噤むしかない。
瞳に涙を溜めて悔しそうに苦しそうに胸を押さえてふらつくレータをジョーズが慌てて支える。
その胸に抱かれた赤いリボンは確かに、赤のサロンで見た写真のデイジアの髪を飾っていたリボンによく似ている。
この部屋に幼いデイジアが居たのかもしれない。
そして血の付いたあのカーペットは……。
それは点と点を結ぶ線となって一種の真実へと導くための推理になるのだと、揺らめくリボンが告げている。
「一旦、戻りましょうクリスティー様」
「えぇ、そうしましょう」
今にも倒れそうなレータを引き連れての探索は困難だとジョーズが判断する。
それにこの先に進んだとしても同じような通路と覗き穴があるだけだろうということは容易く推測出来る。
なにせこの城は左右で双子のように対で出来ているのだ、違いといえば赤か青かの名付けられた色くらいだ(事実その通りで、先に進んだとしても赤の間の隠し通路と全く同じように出来ている)。
ジョーズの判断にクリスティアも頷いて来た道を戻り開いたままにしていた赤のサロンの隠し扉を通り、閉じる。
陰湿で暗雲なる秘密を隠すように。
「はぁ……広いと落ち着くね」
「そうですわね」
じめじめと薄暗く狭い通路にいたせいか広く綺麗な部屋に出れば開放的な気分になりアリアドネは自然と安堵の息を吐く、それにクリスティアも納得したように頷く。
「大丈夫ですかレータさん?」
「は、はい……」
いまだ顔色が悪いレータをジョーズが椅子に座らせて、近寄ったアリアドネが気遣う。
人の良い両親に育てられたせいかアリアドネも相違なく人が良いのだ。