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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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地下の部屋③

「ねぇ……あのカーペットってさ。中に死体とか……ないよね?」


 そんなジョーズの憂鬱な気持ちを遮るように、左の壁際に置かれたカーペットをアリアドネが怖々と指差す。


 それは確かに、人が一人分が余裕で入れそうな大きさで……金糸の使われた赤く派手なデザインはこの部屋と似つかわしくない作りであり、そのカーペットの中央には不自然な盛り上がりが出来ている。


「まぁ、そんな……確認してみましょう」

「クリスティー様、私がやりますから下がってください」


 膝を抱えて横向きに寝転んだ人間が隠れていそうなその不自然な空間。

 ドキドキと胸を高鳴らせて吸い寄せられるように近寄りかけたクリスティアを慌てて制したジョーズは代わりに近寄る。


 動かない死体だったらまだいいもののアチェットを殺した殺人犯人が中に潜んでいたらどうするつもりなのか……。

 警戒しながら剣の柄を握りカーペットの端を握ったジョーズは勢いよく、持ち上げる。


「きゃっ!?」

「これは……!」


 捲った先には白い、白い腕が一本転がっている。


 まさか本当に侵入者でも隠れていたのかと一瞬、身構えるジョーズだったがその腕の先へと視線を向ければそこには続くはずの胴体が無いことに気が付く。


 少女達に見せるべき物ではないと反射的にカーペットで再び隠そうとしたジョーズだったがそれより早くアリアドネがその腕の存在に気付き悲鳴を上げてクリスティアの背中に隠れる。

 見られてしまったからには仕方ない……。

 隠したところでどうせクリスティアに見せろとせがまれるのだろうからと、それでも少しは隠しながらジョーズが手を伸ばしその腕に触れてみれば……その触り心地に眉を顰める。


「ただの義手……ですね」

「もう!驚いた!」


 持ち上げた腕の堅さと冷たさにそれが本物ではないと気付いたジョーズが試しにと壁にぶつけてみればコツンコツンと堅いものが互いにぶつかる音がする。

 それにアリアドネが安堵して、可愛らしい悲鳴を思わず上げてしまった恥ずかしさから怒った声を上げる。


「他にはなにもなくて?」

「えぇ、あとはただのカーペットです……ん?」


 腕以外にあるのは冷たい床だけで、鼠一匹隠れていない。


 本物の腕でなくて良かったとホッと息を吐いたジョーズがそのまま捲ったカーペットを覗くようにして見れば、そこには絵柄を覆うようにして一部だが広範囲になにかを溢したような黒色で染まっている。

 単純に飲み物でも溢して汚くなったから捨て置かれたのかもしれない……そう思い明るいところでなにもないことを証明しようとカーペットを思いっきり捲れば、その黒い色が単純な飲み物の汚れではないことをジョーズはすぐに理解する。


「これ……血、ですね」


 片膝を立ててしゃがんだジョーズがランプの下に照らされた広く染みこむ黒色をまじまじと見つめる。

 騎士という職業柄、見間違えるはずはない……間違いなくこれは乾いた血だ。


 しかも大量に流された過去の血。


「血!?」

「えぇ、時間は経っていますけど間違いありません」


 クリスティアの背中に隠れていたアリアドネがジョーズの言葉に驚いた声を上げ更に隠れる。

 広範囲に飛び散るようにカーペットを汚す血液の量からして小動物が流した血というわけではなさそうだ。

 もしかするとその血液は人かもしれないと皆の心を不気味にざわつかせるが、だが誰もその疑問を口にはせずに飲み込む。


 恐ろしいのだ。


 これがもし人から流れでたものであったのだとしたら……それはその者の命に希望は持てないと分かるから。


 君主の死に続いて血液の付着したカーペット。


 この城は一体なにを隠し続けているのか。


 気分の悪くなる事実ばかりにレータが後退りその身を預けるようにしてベッドの柵に寄りかかったところで、隠されるように枕の横に置かれた赤いリボンを見付け息を呑む。

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