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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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地下の部屋①

 一歩足を踏み入れた扉の先は埃っぽく、人一人が通れるほどの広さの階段が階上と階下へと続いている。

 サロンの中からは分からなかったが、扉の横に小さな穴が2カ所空いており暗い階段へと光りが筋で差し込んでいるので覗き穴があるようだ。


「どちらに参りますかクリスティー様?」

「上から参りましょう」


 カンテラを持つジョーズを先頭にクリスティア、アリアドネ、レータが続き足元に気を付けながらゆっくりと進む。

 カンテラの明かりだけではやはり辺りを照らすのには乏しく、先が暗闇で見にくいぶんなにが待ち受けているか分からない恐怖に自然と皆の口数も少なくなる。


「公がおっしゃっていた秘密の通路とはこのことなのでしょうね」

「そうだね……」


 アチェットと隠し通路の話をしていたときは祭りの雰囲気に浮かれて楽しかったというのに……。

 こんなことになるなんてと暗闇の中で更に暗くなる気分をアリアドネは引き連れて階段を上りきり少し細長い廊下を進めばすぐに行き止まりに辿り着く。


 位置的に二階に上ってきただけなのは確かなのだが……そこは行き止まりでなにもない。

 何処かに燭台のような仕掛けがないだろうかとジョーズがカンテラを左右に振って壁を調べれば不自然に空いた二つの穴を見付ける。


「こちらにも覗き穴がありますね」


 ジョーズがカンテラを穴に向ければ二筋の光りが穴へと向かって吸い込まれていく。

 クリスティアが興味深げにその穴の中を覗けば、そこには自分達が花火を見るために居た赤の客間が広がっている。


「赤のサロンの上は赤の客間だったかしらレータ?」

「は、はい」


 ただ単純に二階に上ってきただけらしく覗き穴から顔を離したクリスティアに次いでアリアドネも興味深げに顔を覗かせる。

 レータも気になっているらしくアリアドネの後ろでソワソワと落ち尽きなく立っているその様子を後ろからクリスティアが見つめる。


「他にはなにもないようですね」


 ジョーズが隠し扉でもないか壁を触って確かめてみるが、押しても叩いても特に反応があるわけでもなくただの壁でしかない。

 隠し扉はどの部屋にもあるわけではなく、覗き穴しかない趣味の悪い行き止まりに一同はただただ気味の悪さを感じる。


「レータはこういった隠し通路があることはご存じだったのかしら?」

「いいえ、わたくしはなにも……」

「では、他の使用人達から聞いたことは?スターマンは執事頭ですし知っていてもおかしくはないでしょう?」

「存じ上げないと思います。赤の間と青の間のメイド頭は執事頭と邸の間取りや他の隠し通路の情報の共有はしておりますので」

「そう……では階下に行ってみましょうか」


 誰も知らないこの通路を誰が使い一体なにを見ていたのか……。


 憂えるように頬に手を当てていたクリスティアだったが、ずっとこの場に居るわけにもいかないのでもう一方の通路の先である階下へと動き出しす。

 ジョーズが横を通り再度先頭を歩き始めたので穴を覗き込んでいたアリアドネが必然的に一番最後を歩くことになる。

 一番明かりから遠のいてしまい怖いなと身を縮ませながら歩き出そうとアリアドネが一歩足を踏み出したところで、その足にカツンと何かが当たりビクッと身を震わせる。


(び、びっくりした……)


 小石でも蹴っ飛ばしたのかコロコロと転がった一際大きいその音を視線で追いかければ一瞬、ジョーズの持つカンテラに照らされなにかが光って壁にぶつかったのであれ?っとアリアドネは不思議に思う。


 ただの小石が光りに反射するだろうか?


 光ったそれから視線を外さないまま近寄ったアリアドネは何の気なしに気になったのでしゃがんでそれを持ち上げればどうやらそれは小石ではなく金色の丸いラペルピンだったらしく、なんでこんな物がここにと思いながらアリアドネは掌で転がす。


(これ……)


 立ち止まって見たことのある形のラペルピンの形になんだっけっと疑問を深くしたところで、天から神が啓示を降ろしたかのようにアリアドネはこの形がなんだったのかを活性化した灰色の脳細胞が思い起こす。


(前世の知識は私を見放していなかった!)


 ドキドキと高鳴る心臓に歓喜の天使が頭上を舞い踊る。


 ハレルヤ!神よ!っと叫びたい気持ちを押さえてはいるものの心の中で前世の文代と今世のアリアドネが手を取り合って小躍りし狂喜乱舞する。


「アリアドネさん、どうかなさって?」

「ううん、なんでもない!」


 そんな浮かれきった気配でも感じたのか暗闇の中でぼうっと立って置いていかれそうなアリアドネに気付いたクリスティアが振り返って声を掛ける。

 思いの外、離れていた明かりにアリアドネは驚きつつも、手に入れた証拠を誰にも気付かれないように慌ててポケットに入れる。


(この勝負、勝ったぁぁ!)


 羽が付いたような軽い足取りで皆に追いつき、目前に迫る確固たる勝利に浮かべそうになる笑みを頬に力を込めることでなんとかアリアドネは堪える。

 その堪えた顔が微妙なニヤけ顔だったので逆に怪しさを醸しだしているが特になにか聞くわけでもなくクリスティアは不思議そうな表情を浮かべながら前を向き先を進む。


 隠し扉の開いたサロンの前を通りその明かりに少しだけ安心しながら再び暗闇の待つ階下へと進んで行けば今度は左右に道が分かれた通路へと行き当たる。

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