夜会での出来事⑥
「それで?そのクリスティーは何処にいるんだ?」
「ゲストルームで休んでいるらしい、侯爵夫人の話では体調が悪いようなんだ」
「なんだ、悪魔の霍乱か?」
立ち止まっていた足をゲストルームに向かって動かしはじめたユーリに付いてハリーも歩きだす。
クリスティアの体調不良に心底驚くハリー。
その口から出てくる心配ではなく暴言に、酷い言われようだと普通の人ならば思うかも知れないが、季節の変わり目で病気になるユーリやハリーとは違い余程のことがなければ病気一つしなかったクリスティアの幼い頃を知っていれば皆同じような反応をするだろう。
かつて病気になったユーリやハリーに看病と称した酷いお世話をして悪化させるのがクリスティアの役目だった。
後日そのことへの不満を漏らせば誰かの看病をしたことがないんですものっと悪びれもせず平然と言い、今度も病気になれば看病に来るから嫌ならば病気にならないよう体を鍛えればいいと無邪気に笑うそれがクリスティアだ。
恐怖の看病のおかげでユーリもハリーも体を鍛え、今は病気一つしない。
「自分が連れてきたのだとしても殺人犯人と同じ馬車に乗ってここまで来たんだ、普通ならば神経が参っても仕方ないところだ。まぁ本人は楽しがっていたようだから本当に体調が悪いのかは疑問だがな」
「ちょっと待て、その話詳しく」
殺人犯人と同じ馬車に乗って来たとはどういうことなのか興味津々と聞いてくるハリーはあんなに大きな騒動となっていた事件のことを知らなかったらしく……逆に何故気付かなかったのかとユーリのほうが驚き、なにがあったのかの顛末の説明する。
「だから使用人達の姿を一度見なくなったのか、色々と見て回るのに人が居なくなってくれたから助かったけど……クリスティーの勇士を見逃したのは残念だな」
勇士というか向こう見ずで無鉄砲なだけだ。
混乱ばかり引き寄せたと思っていたがまさかここにその騒動で助けられた人物がいたらしく。
殺人犯人と共に馬車で現れるとは実にクリスティアらしいと楽しげに笑うハリーに、こちらは全然楽しくないとユーリは不満げに顔を顰める。
「俺の用事も終わったことだし、折角だから間接的に助けてもらった敬意を払ってクリスティーに挨拶して帰るかな」
「ならば一緒に帰ろう、クリスティアのお目付役は何人居ても足りないくらいだからな」
違いないと笑うハリーに、はてさてクリスティアが大人しくゲストルームに居てくれたらいいのだがとユーリは願う。
もし居なければこの広い邸宅内の捜索となるのだ、考えただけでもゲンナリする。
辿り着いた装飾煌びやかな扉を見つめ、溜息を吐いたユーリは右手を上げてコンコンっと良く響くノックの音を響かせた。