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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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推理対決③

「私が謎を解いてこのゲームのヒロインだってことを証明してあげる!」

「うふふっ、余程自信がおありなのですわね」

「まぁね、なんだったら推理勝負とかしちゃう?」

「推理勝負、ですか?」

「そう、ストロング公を殺した犯人をどっちが先に見付けるのか勝負するの。それで負けた方は勝った人の言うことをなんでも一つ聞くってのはどう?」

「まぁ、殺人事件を勝負に利用するなんて……不謹慎だと思うのですけれども」

「うっ、確かにそうだね」


 どこまでも慎みのない軽口だ。


 アチェットの遺体を見て悲鳴を上げたのはつい先程の出来事だというのに……。


 非日常の緊張していた空間から離れて、日常の何気ない行動をしたせいかあの体を貫いていた剣は偽物で悪い夢だったのではないかと思えてしまったのだとアリアドネは反省するように項垂れ、この口が悪いと手でぺしぺし叩くが……その軽口すらあの惨劇を思い出さないための無意識の防衛本能なのかもしれない。


 そんなアリアドネの推理勝負に不謹慎だと言いながらも思いの外、クリスティアは興味を引かれたらしい。


「もしあなたが勝ったときにはなにを望んで、わたくしが勝ったときはなにをくださるのかしら?わたくし欲しいものなんてございませんもの」


 公爵令嬢として生きているクリスティアにとって物質的なものは平民のアリアドネと違って難なく手に入る。

 なんだったらアリアドネを操れる奴隷契約書だってある。

 クリスティアがアリアドネに与えられるものはあったとしても逆はないのではないかと純粋に悪気なく浮かぶ疑問に小首を傾げられる。


「そうでしょうね……私が勝ったらそうだなぁ、あの奴隷契約書の破棄だとして……クリスティーが勝ったら今後一切いつ如何なる時でもバイトの日だって休んでクリスティーの元に駆けつけてあげる、とか?」


 他にクリスティアに与えられるものは思い浮かばず。

 この勝負に勝てば奴隷契約書以上に自分自身を売る宣言をしたアリアドネに、クリスティアはまるでまたとない宝物を見付けたかのような驚きと輝きの笑みを浮かべる。


「まぁ、それは素晴らしいご提案ですわ。分かりました勝負いたしましょう」

「えっ!?」


 不謹慎だと言っていたのにどういう心境の変化なのか。

 余程アリアドネが提示した条件が魅力的だったのか、あっさりと勝負を了承したクリスティアにアリアドネの心臓が勝負に負ける不安ではなく、この勝負に必ず勝てるという高揚感でドキドキと高鳴る。


(こ、これ……これって絶対私が勝つやつじゃない?)


 そう、アリアドネは思い出したのだ。


 いや、思い出したというより気付いたのだ。


 この殺人事件はアリアドネの糸の二作品目、ペルセポネの実のシナリオと類似しているということを。


(場所も登場人物も違ったから気付かなかったけど内容は同じだから絶対にそうだ!)


 ペルセポネの実の一番始め。

 チュートリアル的な物語が全く同じ内容だったのだ。


 物語のヒロインが突如として巻き込まれる初めての事件。


 場所はディオスクーロイ公国ではなかったし、事件で死んだのも一国の主ではなかったけれども。


 祭りの日、執務室での死、体を貫いた剣。


 細々とした箇所は一致しており、この場にいる集められた人数もそのシナリオと合致している。


 アリアドネが覚えているのはこの事件で重要なのは誰が犯人かではなく誰の証拠を見付けるかだった。

 犯人は誰にでもなり得るというのがこのチュートリアルで、誰の証拠を集めてそれを犯人とした相手へと突きつけるかが大切で……見付けた証拠によって大まかな攻略対象が決まるというのがペルセポネの実の始まりだ。


 それはつまり……だ。


 ある意味で全員が犯人のような状況でこの勝負に勝つつもりならばアリアドネが証拠探しよりもまず最初にやるべき行動は、この殺人事件の解明をどちらが先にするのかということを決めることだ。


「ね、ねぇクリスティー?しょ、勝負するとしてもさ、私は何度か経験のあるあなたと違って犯人捜しは初心者なわけじゃない?もしこの謎が解けたらとしてそれを披露するってなったとき私が先に謎解きしても良いでしょ?」

「えぇ、それは勿論。構いませんわ」


 特にこだわりはないのだろう、あっさりと頷いたクリスティアにアリアドネは心の中で盛大なガッツポーズをする。


 これであの奴隷契約書とおさらば出来るのだ、こんなに嬉しいことはない。


 クリスティアが侮っているヒロインのポテンシャル、原作の内容を知るものの特権をフルに活用して自由を掴んでやると。

 アリアドネが事件を解決し悔しがるクリスティアの姿が目に浮かぶと、上がりそうになる口角を押さえて取り澄ました顔をする。

 だがそんな抑えきれない口角の上がったニヤケ顔のアリアドネを、クリスティアはなにもかも見通しているような緋色の瞳で微笑ましげに見つめていた。

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