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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
222/626

推理対決②

(あれ?そういえば私、どうやって死んだんだっけ?)


 真っ黒に塗り潰されぽっかりと空いた記憶の穴。


 今の今まで深く考えたことはなかったが、幼い頃から死ぬ前までの記憶は鮮明に……というわけではないけれども、大体は覚えているというのに……。

 一番直近であるはずのその死の瞬間は不思議なほどなにも覚えていない。


 テンプレの事故?


 ブラック会社に勤めていたから過労死?


 でもどの死因もアリアドネはピンとこない……。


「ねぇ、クリスティー」

「はい」

「クリスティーって前世、自分がどうやって死んだか覚えてる」

「えぇ、覚えておりますわ」

「そうなの?私、全然覚えてなくて……ちなみにどうやって死んだの?病気とか?」


 不随と言っていたからその関係で病死かなっと自身が死んだ原因を思い出すきっかけにもなるかもしれないと興味本位と参考までに聞こうとして、デリカシーがない質問をしたことにアリアドネは思い至る。

 前世の話だとしても死に方を聞くなんて……もしそれが苦しく痛みのあるトラウマものの死だったらどうするのか。


「あっ、やっぱり言わなくても……!」

「いいえ、病気ではございません。殺されました」

「えっ?」

「殺されたのです」


 慌てて止めようとしたアリアドネにあっけらかんと、他人事のように自分の死の原因を口にするクリスティアにアリアドネのほうが驚き言葉を失う。


 殺されたってあの殺されたで間違いないのだろうか?


 アチェットに深く突き刺さっていた剣のように?


 クリスティアの、いや愛傘美咲の死因は殺人なのだと告げられて、思い出せない自身の死の謎なんか頭から吹っ飛びアリアドネは戸惑い、驚く。


「……あの、えっと」

「まぁ、そのような辛い顔をなさらないで前世のお話しですわ。覚えていたとしても精神的なトラウマにもなっておりませんし、わたくし気にもしておりません。それにわたくしがわたくしの死で一番悔しく思っていることはわたくしの死という謎の解明を科学技術に委ねたことですから」


 探偵が必要な謎にすらならなかった自身の死。


 警察が事件の背後関係を洗えばあっさりと解決するであろう稚拙な事件で美咲は死したとしても自身の手で殺人犯人を追い詰めるためその皮膚を爪で引っ掻き取り、DNAという科学技術に犯人捜しを託したのだ。

 その行為が……苦しかった死すらも越えるほどの悔しさとして今、クリスティアの胸に残っている。


 どうして稚拙であったとしても殺人事件という謎の捜査を生きている者にさせなかったのか。


(そうすれば……先生が探偵になれたはずなのに……)


 一人取り残された世界で、きっとあの人の慰めに少しはなったはずなのに……。


「私、自分のことは覚えてなかったから……ごめんなさい」

「……いいえ、覚えていないことが普通のことなのかもしれませんわ。今、生きている世界には前世の記憶というものは本来必要のない記憶ですもの」


 死んだ瞬間の記憶なんてものは特に……自身を苦しめる傷にしかならない。

 覚えていないことが良いことであり正解なのだと、その死を覚えているクリスティアは諭すようにアリアドネに語る。


「あなたの死は不幸ではあったけれども悔しむことのないものだったから覚えていないのだと思いましょう」


 愛傘美咲の死を覚えているということはクリスティア・ランポールにとってその死は後悔となった記憶なのだろうか。


 ラビュリントス学園で、ゲームの悪役令嬢なのだとクリスティアを警戒して庭から図書室の窓に映るその姿を見つめていたアリアドネはその視線が時々窓の先、何処か遠くの方へと向かっていることを知っていた。

 その見つめる先にある感情は悲しみや苦しみ寂しさや悔やむようなそういった感情なのだとしたら……なんて配慮のない問いだったのかとアリアドネは申し訳なくなりながら頷くように俯く。


「そうだね、覚えてないなら覚えておく必要のない記憶だったって思うことにする。今はそれよりこの殺人事件を解かないとね!」

「えぇ、そうね。公の無念を晴らしてさしあげなければ……」

「うん、犯人を捕まえて警察に突き出してやるわ!」

「まぁ、頼もしい」


 興味本位で人の死を聞くんじゃなかったと一切思い出せない自身の死の記憶と、愛傘美咲の死を思い暗くなる気持ちを切り替えるようにアリアドネはこの謎を解く自信があるとばかりに胸を張る。

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