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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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混迷

「さて、では皆様のお話を一通りお聞きしましたところ此方に居らっしゃる皆様には殺人事件が起こったであろう時刻にはそれぞれアリバイがしっかりとあるということが分かってしまいました」


 頬に手を当てたクリスティアは困ったというように眉を下げる。


「ポネットが公の姿を最後に見てからレータはわたくし達と、スターマンはアント様と、ミシェルはリンダ夫人と、アーデンご夫妻はポネットとルミットそれぞれご一緒に過ごされていたということになります」

「犯人がこの中にいるだなんて大層なことを言っておいて……だったら俺達は無罪放免だな!」

「えぇ、額面通りに受け取るならば……ですが。お互いのアリバイを証明した者が公を殺した共犯者の可能性がないとは言い切れませんわ」

「ハッ!馬鹿らしい!俺がこの老いぼれと?俺ならもっと優秀な殺し屋を雇うがな。あんたにかかればどんな奴でも犯罪者になるんだろうな!」


 自分がスターマンと共犯者とされるなんて心外だ、この国の君主を殺すのならばもっと優秀な暗殺者を金に物を言わせて雇う。

 自身を疑うならばそれこそ外部から侵入者を疑うほうがよっぽど建設的だとクリスティアのお粗末な推理をアントは嘲笑う。


「義姉さん。ポネットが飲み物を持って行ったときに公は本当に亡くなっていなかったのですか?遺体の状況的には剣で一撃でしたでしょうから、不意を突けば力の無い女性でも犯行は可能だったと思うのですが」

「そ、そんな!私じゃありません!」

「あくまで可能性を示しているまでです、あなたは公を最後に見た人物なわけですし」

「そこはわたくしが保証するわエル。化粧室から出たときにポネットがお茶を持って入りすぐに出て来たのを見ていますもの、時間は一分にも満たなかったはずだわ。証拠隠滅の時間を考えれば短すぎるでしょう」


 クリスティアが目撃者ならば、ポネットがアチェットを殺害するのは難しいなとエルも判断する。


 では一体誰がアチェットを殺したのか。


 これでは此処に居る誰にも犯行を行うことが出来ないではないか。


 もしかして超常的ななにか……生け贄という風習のあった公国に巣くうお化けや呪いの類があのような悲劇を起こしたのではないかと考えて、ブルリと身を震わせたアリアドネは今の今まで忘れていたことを思い出す。


「あの……雰囲気を壊してごめんなさいちょっと出て来てもいいですか?」


 恐怖に煽られて忘れていたトイレに行きたいという気持ちが超常的な怖い妄想をするまでに落ち着いてきた精神状態によってフッと思い出したかのように湧き上がってきてしまう。

 だが、なんと言ってこの場を立ち去ればいいのか分からない……トイレに行きたいと言うのは流石に恥ずかしい。

 集まる視線にアリアドネがもごもごと口籠もっていればクリスティアが助け船を出す。


「そうですわね、わたくしも少し調べたいことがございますので休憩にいたしましょう……レータ、一緒に来てくださるかしら?皆様はどうぞこちらでお待ち下さい」

「おい!ふざけんな、お前は出てよくてなんで俺達は駄目なんだよ!」

「駄目だなんて申しておりませんわ。ですが特にご用事がないのでしたら外に出ることはおすすめは致しません。もし出られるのだとしてもどうぞ誰かと共に行動をなさってください。この中に殺人犯人が居ないとなりますと別の誰かが忍び込んでいるということになりますから。皆の目を離れた瞬間、襲われ殺されても文句は言えませんわ。それにもしこの中に殺人犯人が居たとしてもどうぞ気を付けてください。共に行動する者が殺人犯人ではないと言い切れませんので」


 ニッコリ微笑んで警告するクリスティアの細められた緋色の瞳は、ゴクリっと唾を飲んで怯えるこの部屋に居る者達を疑心の目で見つめる。


「わたくしの拝聴していた小説の一つに、全ての登場人物が殺されるという話がございますわ」

「馬鹿な。殺人犯人は普通捕まるのが定石だろう、正義は勝つものだ」

「いいえ、ルドル様。そのお話は殺人犯人の完全なる勝利で終わるのです」


 全員のアリバイが証明され、この部屋の中にいる者達は安全だと思い込んでいる緩んだ緊張感を戒めるようにクリスティアは一同を見回す。


「この城の中に殺人犯人がいるのならばその殺人犯人はなにを思い、考え、どういう結末を望んでいるのかは誰も知ることは出来ないでしょう。どうぞ誰もいなくなりたくなければ皆様大人しくこの部屋でお待ちください。そして互いが互いを疑い観察し不審な動きをする者を見逃さないようなさってください」


 これ以上の犠牲がないことを願っているのか疑わしいクリスティアは不穏な言葉を残しアリアドネとレータと共に去る。

 残された一同は重苦しい空気の漂う室内で、静かに閉じられた扉が唯一の安全なる城壁であるかのようにただ静かに見つめ続けるしかなかった。

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