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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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夜会での出来事⑤

「あまり危険なことはしないでくれよ」

「危険なことは若いうちにしか出来ないんだぞユーリ」

「その台詞、クリスティアの前では絶対に言うなよ」

「はは、言ったところで……だろ?」


 クリスティアが聞けばどんな恐ろしいことになるのか分かったものではないが、クリスティア自身の振る舞いが既にそれなので言ったところでなにを当たり前のことを言っているのかしらっという反応しか返ってこないだろう。

 確かに違いないなっと深い溜息を吐くユーリにハリーも肩をすくめる。


「それよりユーリだって珍しいじゃないか、王太子殿下がわざわざ顔をだすような夜会でもないだろう?」

「私はクリスティアのお目付役だ」

「あぁ……これはまた高貴なお目付役だな」


 社交がそれほど好きでもなく親しくもない下位の貴族の夜会にユーリが渋々ながら足を運んだ理由に、なるほどっとハリーは苦笑いをする。

 ということはこの会場にクリスティアがいるのか。

 しかしながら今は一緒ではないらしいその姿にハリーは辺りを見回し探す。


「そういえばドレスを作ってたよな、クリスティーに贈ったのか?」

「なぜ知っている?」

「城に用があって行ったときに使用人達がな、自分の瞳と同じ色のドレスを贈るなんてあからさま過ぎて王太子殿下は恥ずかしがるかと思っていたのにって感動してた。いつもクリスティーに振り回されてばかりの殿下がとうとう積極的にレディーのエスコートをするようになったんだってそれはそれは皆が喜びまくって吹聴してたぞ」

「よし、その使用人達の名を全員教えろ。私は狭量だからな小さな嫌がらせを数多くしてやる!」

「おいおい、そんなことしたら俺が嫌われるだろ」


 使用人達の愛情深い親心の吹聴に顔を真っ赤に染めて握り拳を震わせるユーリ。

 そんなに恥ずかしがったってちゃっかり自分の服装だってクリスティアの髪と瞳の色で構成されているではないかと思いつつも、藪を突っついても蛇しか出ないのでハリーは口には出さずに両手を挙げて使用人達の味方をする。


 幼い頃から優秀で自分のことは自分でしてきて面倒のかからなかったユーリ。

 気付けばハッキリとした言葉を話していたことに不満を持ったゲロ甘な陛下と王妃に巻き込まれて幼児言葉を要求され、お願いしましゅっとーしゃまかーしゃまっと純真無垢に言わせられていた幼き頃の日を思い出してくださいとクリスティアへのつれない態度を窘める老執事にハリーの前でされた幼き頃の痴態の暴露に、私はあんな夫婦には絶対ならない!と恥辱を堪えて叫んでいた去年のユーリが……婚約は決められたものだからそれ以上の感情はないと頑なだったあのユーリが!

 どういう心境の変化かは知らないが、自分の瞳の色のドレスをクリスティアに贈るなんてどう考えても王妃大好きな陛下の血筋ではないか。


 両親のせいで多少感情表現が捻くれてはいるものの少しずつクリスティアに対して大人になろうとしているユーリの姿に、それはそれは祝うべきことだとはしゃいでいた使用人達の喜びように、ハリーも微笑ましくなるというもの。

 とはいえそんなことを祝い事のように誰彼構わず吹聴されたらハリーだったら恥ずかしくて慙死してしまうが。


「それよりクリスティーが居るなら間違いなくこの侯爵家は終わりだな、悪いことを嗅ぎつける嗅覚は犬より鋭いからな」


 ドレスの話がトラウマになり二度とクリスティアに贈り物をしないとユーリが言い出したら使用人達が憐れなので話題を変え、懐から二、三の紙を取り出し見せてニヤリとハリーは笑う。

 その人の悪い笑みにユーリは呆れる。

 この侯爵家の終わりの一端を引くことになるのはクリスティアではなく間違いなくハリーなのだろう。

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