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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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ポネットとミシェル、そしてリンダ・バード夫人

「では次はポネット。あなたがお茶をお持ちしたときストロング公はなにをなさっておいででしたか?」

「えっ、あの、お茶をお持ちすると君主様は机で書き物をされておりました。私はお茶を置いてすぐに退出し君主様を見たのはそのお姿が最後です。勿論亡くなってはおりませんでした!」


 クリスティアに問われ肩を震わせて怯えた瞳でクリスティアを見つめるポネットはスターマンに頼まれアチェットの元へと向かったときの状況を告げる。


 最後にアチェットの姿を見たのは恐らくポネットだ。


 自分が疑われるのではないかと不安に襲われているいるのだろう……ポネットは自身のスカートを強く握り締めながら頭を左右に振り殺していないと強く、強く主張する。


「えぇ、疑ってはおりませんわ落ち着いて。それで?執務室を辞した後、あなたはどうなさったのかしら?」

「ディ、ディナーの準備のため厨房へ戻ろうとしましたが……あ、あのバード夫人に着替えを手伝うようにと呼び止められました……」


 ポネットが戸惑うようにリンダをチラリと見る。

 その様子はその出来事を口にすることを随分と恐れているようだ。


「あ、あの……それで私……」

「さっさとお言いなさいな腹だだしい!このメイドったらねわたくしの宝石を落として傷を付けたのよ!亡くなった主人がくれた大切なネックレスでしたのに……!」


 ポネットの煮え切らない態度に苛立ったリンダが目を吊り上げて怒りだす。


 どうやら自分の失敗を口にすることを恐れていたらしく、リンダに睨みつけられたポネットは萎縮し、瞳を潤ませる。


 ネックレスを落としたことは故意ではなかったのだが、そのネックレスを大切にしていたぶんリンダの怒りはアチェットの死を悼むよりも深いのかもしれない。

 ポネットがもしかすると弁償しなければならないリンダが大切にしていた宝石は一介のメイドの給金では到底支払えるはずのない物で、それに付随していたはずの思い出はお金には変えられない。


 もしかすると救いの手を差し伸べてくれていたかもしれない主も亡くなった今、憐れなメイドはただ怯えるばかりだ。


「リンダ夫人のお声をお聞きしわたくしが夫人の元へと参りました。酷くお怒りでしたのでポネットを下がらせて、わたくしが以降の対応させていただきました」


 ミシェルが今にも泣きそうなポネットを庇うように前へと進み出る。


「リンダ夫人の声を聞いたときあなたは何処に居たのかしらミシェル?」

「わたくしは丁度、青の間のことで君主様にお伺いしたいことがございましたので執務室へと向かう所でございました」


 結局、怒りの収まらないリンダの相手をすることとなり、ミシェルはアチェットの元へは行けなかったのだが。


「リンダ夫人はどちらにお泊まりになられておられるのですか?」

「わたくし?わたくしは二階の見晴らしの良い赤の客室に泊まっているわ」

「皆様の居られた赤の客間から三部屋ほど離れた場所に赤の客間はございます」


 アチェットの居た赤の執務室は二階の一番奥にありリンダの泊まる赤の客室からは離れているので、執務室でなにが起きていたとしても気付かないだろう。

 だが裏を返せばアチェットの一番近くに居たのはリンダだ。


「では花火の間はずっとそちらの部屋におられたのですか?」

「えぇ、そこのメイドを叱ったあと気分が悪かったからディナーまで部屋で休もうと思っていたんだけど花火が上がるから気分転換に見に出ましょうと残ったメイドに言われて仕方なくバルコニーへと出たわ。主人がね、この城の景色が大好きだったの。プロポーズだってこの城でしてくれたのよ。だから一年に一度はこの思い出の場所で過ごすって決めているの……今年の思い出は散々なものになったわね」

「私、その姿を見たわ。花火の途中からだけど終わる頃までは確かにバルコニーにいた」


 物悲しげに花火を見ていた横顔、同じ紫のドレスの色……アリアドネが見たのは間違いなくこの女性だった。


「花火を見て、気分が少し晴れたからバーにでも行こうとしたらあなた達に呼ばれたのよ。すぐそこで人が死んでいたなんて……全く気付かなかったけれど怖いわ」

「お気持ちお察しいたします、夫人に何事も無くご無事でなによりですわ」


 一歩間違えれば自分もその殺人犯人の毒牙にかかっていたかもしれないと思うとリンダは恐怖で身を震わせる。

 アチェットの悲惨な遺体を見ているクリスティアも同じような遺体が増えなかったことを心から安堵する。


「ミシェルは青の間の担当ですけれど、伝達の際は赤の間との行き来は問題はないのでしたかしら?」

「……普段は勿論、青の間の担当のわたくしが赤の間へ入ることは致しません。なにかありましたらスターマン様へご伝言をお願いしております。ですが祭りの時期はご存じの通り人が少なくなっておりますので……君主様が不便もあるだろうと行き来の許可を特別にお許しになられました」

「それは祭りの時は毎回そうなのかしら?」

「いいえ……今回が初めてでございます」


 特別に許された今回の両間の行き来はアチェットが殺されたこととなにか意味があるのだろうか……。

 クリスティアは表情一つ変えないミシェルの薄緑の瞳をじっと探るように見つめる。


「分かりました、ありがとうございます。ではリンダ夫人、あなたにとって公はどのような方でしたか?」

「私?私はあまり関わり合いがないから分からないわ。でも主人がね、とても褒めていらしたわ、先見の明のある素晴らしい君主だって。でも跡継ぎもいらっしゃらないからこれからどうなるのか考えると憂鬱になるわ、亡命でもするべきかしら?」


 溜息を吐くリンダの憂いを思えばそう考えるもの仕方のないことだろう。

 新しく選ばれる君主がアチェットより優秀であることをこの国の者達もラビュリントス王国の者達も祈るばかりだ。


「ミシェルにポネット、あなた達は?」

「わたくしは特に思うことはございません。君主様は君主様であり、わたくしの雇用主であるというだけです」

「わ、私も……あの働き始めたばかりだし……お給金が良いなってことくらいしか」


 使用人の気持ちとしてはそんなものだろう。

 スターマンとは違い普段直接関わり合いがないのならば尚のこと。


 使用人達の胸にはこの先、仕事が続けられるのかお給金はどうなるかということだけが主の死よりも不安として胸に強く広がっているに違いないのだから。

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