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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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スターマンとフォスカー・アント②

「アント様は本日はどういったご用向きでこちらのお城へご滞在なさっておられるのですか?」

「俺か?俺は休暇……といいたいところだが商談だ。公が新しく造った学校に置く備品を仕入れたいってんで俺のところに話が回ってきてな。直接話を聞きたいってんで呼ばれてたんだがなんせ俺は忙しい身で、都合がついたのが今日ってわけだ」


 前日まで商品の仕入れで港町におり、それから急いで公国へと戻ってきたアントをアチェットが直接出迎え、そのまま街のレストランで食事をしながら商品の説明、費用などの概算など話し合いを持ったのだ。

 昼に白鳥の卵でクリスティア達がアチェットと出会ったのはアントと食事をしていたからだ。

 今日は城に泊まり明日には不満なく終わった契約が滞りなく結ばれるはずだったというのに……アチェットが殺されて御破算だとこの国の君主が死んでしまったことよりも取引が結ばれなかったことが残念でならないとアントは肩を竦ませる。


 仕事で色々な国へと飛び回っており、滅多とディオスクーロイ公国へと戻ることのないアントにとって公国は愛する祖国ではないので君主すらどうでもいい存在なのだろう。


「公は契約を結ぶのに明日また来てもらうのも悪いからってんで事前に部屋を用意してくれてな。断るのも悪いだろ?なぁ、折角の取引がパァになっちまったんだ。景気づけに酒でも飲みたいんだが……酔いがすっかり醒めちまった」

「どうぞ本日はお控えください、遺体が見付かった時点で喪に服すべき時です。それに遊戯室で十分にお飲みになられたのでしょう?飲み過ぎはお体に毒ですわ」


 クリスティアに窘められチッと舌打ちしたアントは飲めないことに苛立ったように足を揺する。


「アント様はスターマンが軽食をお持ちになるまで遊戯室からは出られなかったのですね?」

「あぁ、外に出れば花火の音がうるさいだろ?喧しいのは商談の会議だけで十分だ。ま、あんたみたいな美人が居るって知ってたら祭りにでも誘いに出たかもな」

「まぁまぁ、光栄ですわ」


 祭りに行けない、酒も飲めない、部屋に閉じ込められている鬱憤をぶつけるように探偵気取りの幼い少女を標的に片側の口角を上げて不躾に見つめるアントに、ユーリとエルが眉を盛大に顰める。


 この男は彼女がラビュリントス王国の王太子殿下の婚約者であり、準男爵の身分では到底関わり合うことのない公爵令嬢であるということが分かっていないのか。

 いや、きっと分かっていながら煽っているのだろう。


 当のクリスティアはその意趣返しを気にした風でもなく……。

 いついかなるときでも探偵というものは好意的には扱われないものだ、特にそれがやましさを抱えている者ならば尚のこと……自身の隠している後ろめたさを暴かれることを恐れている現れではないかとアントの無礼な態度は逆に疑いを深めてしまう愚かな行為に感じてしまう。

 自身の能力を警戒されればされるほど自身が敬愛する名探偵に近付けた気がしてクリスティアは嬉しくなってしまい……その喜びを表すように胸に手を当てて満面に笑む。

 そんなクリスティアの喜びを全面に表した場違いな笑みを見てアントは気味悪がる。

 動揺も軽蔑もしない、ましてや立場が下の者からの下卑た態度にユーリやエルのように憤りもない。

 すっかり毒気を抜かれ、唾を吐くようにケッと息を吐いたアントはこれ以上の対峙は無駄だと悟りクリスティアから視線を逸らす。


「スターマンは軽食をお持ちした後はどうなさったのかしら?」

「部屋を出ましたのは花火が終わった頃でございます。皆様をお送りする馬車の確認をと思いまず玄関に向かいますと居るはずの馬車が居りませんので皆様の所へと参った次第でございます」


 ならば花火の上がっている間はほとんどスターマンとアントは共に居たといって差し支えない。

 互いがいない間の数分ではスターマンもだがアントも二階の執務室まで上がりアチェットを殺して戻るというのは難しいだろう。


「スターマン、あなたにとって公はどんな方だったかしら?」

「わ、私にとって君主様は立派な方でした……ですが……」

「ですが?」


 なにかを言いかけてハッと開いた口を閉じたスターマンはこれ以上、死んだ君主を貶めるべきではないと口籠もる。

 その様子にクリスティアは今更止めても意味は無いと先を促すようにその瞳を真っ直ぐ見つめる。


「その……ごく稀にですが別人のようにご気性が激しくなったりなさいました。そういったときは私達使用人はお側に近付かないよう気を付けておりました……それもここ最近はございませんでしたけれども」


 執務室で壁に向かってコップを投げつけたり、一人部屋で怒鳴り散らしていたり……。

 気でも触れたのではないかと使用人達は随分と気を揉んだものだとスターマンの訴えに、同じほど長く働くレータも頷く。


「アント様にとって公は?」

「俺?さぁな、交渉相手としては悪くなかったよ」


 城に籠もって執事が持ってきた書類に判子しか押さないような人物だろうと思っていたのだが……。

 損がないように交渉を上手く立ち回る姿は君主にしておくには勿体ないとアントはそう思ったことを思い出したように呟いた。

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