スターマンとフォスカー・アント①
「それではまず皆様のアリバイから確認を致しましょう。わたくし達がストロング公と別れてから花火が終わり遺体を発見するまで大体50分ほど時間がございました。その間、皆様がなにをなされていたのか、誰と共に居たのか、行動を把握する必要がございます。まずスターマン、あなたはわたくし達と別れてからなにをなさっていたのかしら?」
「は、はい……あのレータを呼びに皆様と別れました後、赤の客間から出られた君主様から二階の赤の執務室へと飲み物を運ぶようにと珍しくそのようなご命令を受けましたので厨房へと向かいました。それで……その……厨房では」
「おいおいちょっと待て、その前に俺が厨房に行くなら一緒に果物を持ってくるよう頼んだはずだ」
「さ、さようでございました。赤の厨房へと向かう途中でアント様にお会いいたしました。アント様はそのままバーカウンターのある赤の遊戯室へと入られ、そして私は厨房へと向かったのです」
皆の疑惑の視線を一斉に受けて緊張しているのだろう。
スターマンは不安で激しく脈打つ鼓動を胸に手を当てることで押さえ込み、自分がクリスティア達の案内をしてからなにをしていたのか思い出そうとする。
アチェットの遺体を発見した動揺が尾を引き、まだ気が動転しているのかもしれない。
アントが自身のアリバイに繋がる出会いを忘れているのではないかとその記憶を思い出すように促せばスターマンはハッとしたように瞼を開き、そうだったと思い出したように頷く。
「赤の間の厨房にはルミットとポネットがおりましたので、私はアント様への果物をお持ちするのでポネットに君主様へお茶をお持ちするようにと指示いたしました」
「何故あなたが公へとお茶をお持ちしなかったの?」
「ポネットは新人のメイドでして……まだ赤青の両間の配属が決まっておりません。祭りの時期はそういった子を残して基本君主様のお世話をお願いしておりますので……お客様であるアント様に拙い彼女をお出しするわけにはいかずそう指示をいたしました。そうでしたねポネット?」
「は、はい!スターマン様から君主様へお茶をお持ちするように頼まれました!」
まるでこの現実が夢であるかのようにぼんやりしていたポネットがスターマンに声を掛けられビクリっと体を震わせる。
この場に居る皆、いや遺体を見ていない者達はいまいちアチェット・ストロングが亡くなったという実感がまだないのだろう。
「ではあなたは公が赤の執務室へと向かう姿は見たのですね。そして次に見たのはあのお姿だったと……」
「さようでございます」
『あの』遺体の姿を思い出したのかスターマンは一瞬、身震いをして悍ましく目や耳へと焼き付く記憶を忘れようと瞼をきつく閉じ頭を振る。
そんなスターマンの怯え震える姿を見て、これが演技ならば相当な役者だと、ふむっと考えるような表情をべクリスティアは浮かべる。
「アント様に果物をお持ちしたのは花火が上がる前かしら?」
「は、はい。さようでございます。果物をお持ちして赤の遊戯室を辞したのが丁度花火が上がる頃だったかと……」
「ではその後は?」
「その後は……その……」
もごもごと口籠もるスターマンはなにか後ろめたいことでもあるのか……。
伺うようにアントを見るその視線に鼻でせせら笑ったアントは見下すようにスターマンへと視線を向ける。
「城の執事ってのは言われたら言われた通りのことしかしやがらなくってね、気の効かねぇったらありゃしねぇ。命令された通り果物だけ持ってきてつまみの一つも持って来やしねえからホテルのサービス以下だなんて言っちまってな。俺が使う大国のホテルは一を言えば十返ってくるもんだからよ。ま、敷地が公国くらいあるような高級ホテルだからよぉそんな所と比べるなんて悪かったとあとから反省したよ」
「私の配慮不足でございます。一旦厨房に戻りましてサンドイッチやクラッカーなどの軽食を準備し再びお持ちしました。そのときにはもう花火が始まっておりました」
「花火が終わる前には戻ってきたからな、まぁ許してやったよ」
小馬鹿にしたように嘲るアントに、体の横に真っ直ぐ伸ばした腕を怒りからなのか震わせながらスターマンは頭を下げる。
一階の赤の遊戯室から一番奥にある厨房までは片道3分ほど掛かる。
花火は10分程度の長さだったのでどれだけ急いだとしても二階のアチェットを殺して軽食を準備し、アントの所へと花火が終わる前までに戻るのは難しいだろう。