殺人の発覚①
そうして一階、中央階段から一番近い部屋である青の貴賓室へと集められたのは4名の客人と5名の使用人そしてクリスティア達の新たな客人4名。
ユーリの護衛の為に共に来ていたジョーズには待機室で大まかな事情を説明をし、警備の確認後、不審な者の出入りがないよう扉の外で待機をしてもらっている。
青の間に相応しく壁紙も家具も、青色に彩られている貴賓室には部屋を飾る絵画などの装飾品はなくシンプルな内装をしている。
陽の光がある時分は部屋を明るく照らすであろう大きな明かり窓が正面に三つあるが今はただ暗い闇が広がっており、その暗闇の中に反射した簡素なシャンデリアの明かりに照らされて不安げだったり苛立たしげだったりと様々な表情を浮かべた皆の姿が鏡のように映っている。
まるで窓の外と中では全くの別の世界があるようだ。
「只今、中央の円形テーブルを囲む椅子にお座りなのが伯爵夫人であられるリンダ・バード夫人、暖炉の前にお立ちになられておりますのが準男爵のフォスカー・アント様でございます。壁際のソファーにお座りのアーデンご夫妻は先程ご紹介させていただきましたので改めてのご紹介は必要ないかと存じます。そしてこちらが今城におります使用人達でございます。赤の間のメイド頭のレータに青の間のメイド頭のミシェル、新人メイドであるポネットと厨房を担当しておりますルミットでございます」
「人が気持ちよく酒飲んでたってのに!一体なんだってんだ!」
アーデン夫妻以外の客人と使用人の紹介をユーリ達にするスターマンに、どうして集められたのか分からない上にこそこそと自分達の紹介を勝手にされて苛立ち声を荒げるのは薄茶色の髪をオールバックにし、ワンピースカラーの白いシャツに紺色のウエストコートにコールパンツ姿のフォスカー・アントだ。
「アント様、申し訳ございません。事情がございまして……」
「だからそのご事情ってのはなんだって聞いてんだよ!折角祭りにでも繰り出して一杯やろうと思っていたのによぉ!」
「私から説明しよう」
体格の良いアントを宥めるのは老翁たる執事にさせるのは酷だろう。
スターマンを庇うように前へと出たユーリの威圧感に少したじろぎながら、アントもだが部屋に居る者達が言い知れぬ不穏な空気に警戒を強める。
「まず私の名はユーリ・クイン。ラビュリントス王国の者でこちらは私の婚約者であるクリスティア・ランポールとその弟であるエル・ランポール、友人のアリアドネ・フォレストだ。皆、突然この場に呼び出されてさぞ困惑されているだろうが、事情があり私が皆を集めて貰った」
「だからその事情ってのはなん……!」
「先程、アチェット・ストロング公の遺体が発見された」
王太子殿下とは伏せたせいか変わりはしないアントの不遜なる態度を制するようにユーリが手を上げ、文句が永遠と続きそうなその開く口を毅然とした態度で遮ると先程自分達が見た事実を、告げる。
誰もがなにを言っているのか理解出来ずまず時が止まったように沈黙が広がった。
そしてすぐに張り詰めた緊張感が漂い……誰かの息を呑むような音で止まっていたかのような時が動き出す。
「まさかそんな!」
その沈黙を破り第一に動き出し叫んだのはヘレナ・アーデンだった。
テーブル上のアンティーク時計を揺らしソファーから立ち上がったヘレナはその死が衝撃だといわんばかりに叫ぶ。
その剣幕は儚げな容姿に相反する強い意思を持たせ、衝撃的な事実に対する動揺の中に深い怒りを滲ませている。
「そんな……そんなこと許されない!」
次いで妻に釣られるような形で立ち上がったのはルドル・アーデンだった。
納得いかないといった表情で妻を庇うようにその肩へと手を置き、質の悪い冗談で自分達を騙しているのではないかとユーリへと疑うような眼差しを向ける。
妻の肩に置かれたその手は微かに震えている。
「それは事実なんですの?」
「ハッ、なんだそれ……なんの冗談だ?」
訝しみその事実を受け入れられないと、落ち着いてはいるものの眉を顰めるのは薄黄色の髪を左肩に流してスリットの入ったスレンダーラインの濃い紫色のレースドレス姿のリンダ・バード。
怒りを滲ませ握った拳を震わせ眉を吊り上げるフォスカー・アント。
赤毛の短髪で体格の良い体を少しピクリと揺らしただけで無表情のコックコート姿のルミットに、血の気が引いたとの表現がまさにピッタリなほど真っ青な顔になったレータ、赤毛の髪を後ろでお団子にし唇を噛み締めるメイドのミシェルに一番幼いメイドのポネットは二つに結んだ銀の強い黄色の髪を震わせて愕然とした表情を浮かべて、助けを求めるようにヘレナへと視線を向けている。
「残念ながら……冗談などではございません。先程、わたくし達が遺体を確認いたしました。そうですわねスターマン」
「は、はい」
懐疑的な皆の態度に、ユーリの言葉に真実を持たせるようにクリスティアも自身が遺体を見たことを告げる。
成人していない少女の口から語られる遺体という言葉の違和感と血色のないスターマンの表情と震えるような微かな頷きからユーリの告げるそれが真実なのだと悟り皆、言葉を失う。