花火の終わり③
「取り敢えず皆、外へ出よう」
クリスティアの言うとおり、犯罪現場を保存するためこのまま殺害現場に居るわけにはいかない。
ユーリの言葉に弱々しく頷いたアリアドネはエルに支えられるようにして扉へと向かい、スターマンは震える膝をなんとか奮い立たせて立ち上がると心残りがあるように何度もアチェットの遺体を見る。
ユーリも早々にアチェットの遺体から離れれば、毅然としたクリスティアがすぐに近寄ってくる。
「殿下、見て下さい。窓に鍵が掛かっております。部屋の扉にも鍵が掛かっておりましたので密室殺人ということになりますわね」
「……みたいだな」
どこか嬉しそうに声を弾ませているクリスティアにユーリは呆れながら部屋から出る前にスターマンに声を掛ける。
「この部屋の鍵はそれだけか?」
「い、いいえ!いいえ!違います!」
過剰に肩を震わせたスターマンがジャケットの内ポケットに仕舞った鍵を震える手で服の上から握るように押さえる。
クリスティアが言った密室という言葉が気になって問うただけなのだが……。
この密室をスターマンが造ったのではないかと疑われていると誤解したのだろう……ユーリにそんなつもりはなかったのだが彼は弁解するように必死になって頭を左右に振る。
「私が管理するこの鍵ともう一つは君主様がお持ちです!君主様がお持ちの鍵はマスターキーとなりますので常に持ち歩いております!」
「それは何処に?」
「だ、暖炉の上部の壁にいつも掛けておいでです……ですがこの部屋の鍵を掛けたのは私ではございません!この部屋は君主様からお呼がなければ使用人の立ち入りを禁止されております!何故鍵が掛かっていたのか私は理由を存じ上げません!私は一度もこの鍵を使用したことはないのです!本当に知らないのです!」
「あぁ、落ち着きなさい。疑ってはいないから……もう一つの鍵は確かに掛かっているみたいだな。二つ以外に鍵がないのならば取り敢えずこちらの部屋の扉はその鍵で閉めておこう」
「……は、はい。畏まりました」
部屋から出る前に暖炉の方向を見れば確かに、アンティーク時計の横の壁のフックに鍵が掛かっているのが見える。
つまりこの部屋の鍵を持っているのは実質スターマンだけだ。
自分がアチェットを殺し扉の鍵を閉めたのではないかと一同から疑いの眼差しを向けられているのではないかと怯え動揺するスターマンの気持ちは分からないでもないが、人を殺した後に自分が持つ鍵を使って扉をわざわざ閉めるなんて……。
自分が犯人だと言っているような行動をする馬鹿な犯人はいないことをクリスティアが謎を解く姿を幾度となく見てきているユーリもエルも、アリアドネでさえ前世の知識から知っているので逆にその疑心暗鬼になっている憐れな老齢の動揺に同情心が湧く。
とはいえその馬鹿な犯人にスターマンが当てはまらないとも限らない。
どちらにせよ、今は疑っていないというユーリの言葉に安心したのかホッと息を吐いたスターマンは暖炉の上に掛かる鍵を見て少し訝しんだ顔をしたもののすぐに扉を閉めて震える手で鍵を閉める。
主の……このディオスクーロイ公国の君主が亡くなったのだ。
しかも病死や自然死ではない誰かに殺された殺人という不明瞭な形で……。
仕える主を失ったスターマンのショックは計り知れず、その体はずっと震えている。