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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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夜会での出来事④

「心底帰りたいって顔してるぜ王子様」


 夜会の喧騒を消し去り不気味さを掻き立てる静かな柱時計を食い入るように見つめ、針が一つ動く様子にハッと意識を正気に戻したユーリはクリスティア探しに戻ろうとしたところで驚いたような意外そうな声を後ろから掛けられる。


 先程男が消えた方向へと再度振り向き見ればそこには白色のウイングカラーのシャツにショールカラーのチョッキ、黒色のテールコートと折り目の付いたズボン。

 一見したところこの邸の執事に見えなくもないがテールコートとズボンはよく見ると縦にボーダーが入っており、邸の執事にしては華美な作りをしている。

 肩までの茶色の長髪を色褪せた紫の組紐で結んで左肩に流している軽薄そうな男は焦げ茶の瞳を細め、人好きの良い笑顔で親しげにユーリに向かって片手を上げている。


「ハリー、君も来ていたのか」


 現宰相であり、陛下と無二の親友ウエスト卿の息子であるハリー・ウエスト。

 息子同士も幼なじみであり、必然クリスティアとも幼なじみであるハリーは同じ苦労を共有してきたユーリの親友だ。

 王太子と宰相の息子では身分が違うものの、ハリーがユーリに砕けた話し方をするのは友人の特権でありユーリが望んでいるからでもある。


「珍しいな君はこういう集まりはあまり好きではないだろう、あと次に私のことを嫌みったらしく王子様と呼んだら男子たる者短髪であるべしという校則を取り入れてはどうかと学園長にでも進言してその鬱陶しいそのロン毛を刈り取ってもらうからな」

「権力の横暴だぞユーリ!俺は断固抗議してやる!これは俺のアイデンティティーなんだからな!」

「権力とはな、恐れるべきものなんだぞハリー」


 ニッコリ微笑み恐ろしいことを口にする王太子殿下の無慈悲な提案に自分の髪の毛を守るように両手の平で握りしめたハリー。

 笑っていないユーリの目を見るに本気なのだろう。

 ユーリは王子様と言われるのは鳥肌が立つほど嫌っているのだ。

 本人曰く幼い子供扱いをされているようで我慢ならないらしい。

 その仕返しの仕方は十分子供ではないかと思わないでもないが、そんなことを言えば本当に学園長に短髪であるべしっという校則を進言されそうなのでハリーは敬意を持って申し訳ありません王太子殿下と頭を下げる。


「それで、君は夜会に出ずにこんなところでなにをしているんだ?」

「うちの親父の代わりにな、偵察だよ偵察。ここ最近、財政部に少しきな臭い噂が流れているらしくて……ここの侯爵が色々と関わってるらしいからなにかいいお土産でも持って帰ってやろうかなと思って人脈作りしたりよからぬ噂に聞き耳を立てたりしてた」


 テールコートの襟を掴んで指を滑らし胸を張るハリー。

 この格好はやはり目くらましなのだろう。

 宰相の息子だけあって悪事に関するきな臭さを感じ取る嗅覚は抜群だ。

 人懐っこさや浮薄さを装った態度に(特に女性が)騙されるがハリーを良く知るものならば彼が誰よりも真面目で誰よりも一途者なのを知っている。

 しかしながら憐れながらもその真面目さを知るものはこの侯爵家にはおらず、今日も今日とてその人好きのする性格で色々と誑し込んだ者達からここの侯爵家の情報を得ていたのだろう。


 クレイソン侯爵は財政部に顔が利き、納めるはずの税収を誤魔化しているという話はユーリの耳にも入っている。

 しかしそれに関してはそれ相応の証拠と共に監査が入るとの報告も受けている。

 ハリーは監査が入る前に決定的な証拠でも押さえようと夜会に忍び込んだのだろう。

 クリスティアもクリスティアだがハリーもハリーだ。

 自ら危険に飛び込んでいく幼なじみ達の手法にユーリは肩を竦ませる。

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