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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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花火の終わり①

「では私達も祭りへと向かおうか」


 花火の余韻に浸りながら待ちに待ったメインステージへ。


 祭りの会場はどうせ外となるので部屋の中でゆっくりと暖まることもせずユーリの号令のもと、早々に祭りへと向かおうとすればレータが部屋の扉を開いた瞬間、スターマンが慌てたように室内へ入ってくる。


「申し訳ございません皆様。皆様をお送りするはずだった馬車の御者が街へ行ったまま戻って来ておらず……只今、別の馬車をご用意しておりますので今暫くお待ちください」


 どうやらクリスティア達が乗ってきた馬車を引いていた御者達は自分達の仕事は終わったものだと思い込み祭りへと繰り出してしまったらしい。

 心底申し訳なさそうに頭を下げるスターマンにクリスティアは花火の美しさで気分が良いのか柔らかく笑む。


「まぁ、そうなのですね。気にしませんわ、折角楽しみにしていらしたお祭りのときにわたくしたちがお邪魔してしまったのですから。どうぞ御者達のことは大目に見て下さい」

「ではストロング公に挨拶をしておこう。素晴らしい観覧席を用意していただいたのでお礼を言わなければ」

「お心遣いに感謝いたします。ご案内させていただきます」


 客人達の憤りがなくホッと息を吐いたスターマンは赤の客室からアチェットの居る赤の執務室へと案内するためレータの代わりに扉を開く。


 廊下へと出た一同は花火の音を聞いたせいか一段と静かで人の気配のない薄暗い廊下を少しだけ怖々とした気持ちで奥へと進み、部屋の扉を一つ、二つ、三つ……と更に何部屋かを通り過ぎたところで、立ち止まったスターマンに倣うようにして足を止める。


 スノードロップの花が咲く観音開きの扉、この先にアチェットが居るのだろう。

 コンコンと軽くだがよく響く音で扉をノックし、返事を期待するスターマンだったが……中からは特になんの返答もなく、スターマンは首を傾げる。


「君主様?クイン王太子殿下がご挨拶をとのことなのですが……宜しいでしょうか?」


 声を掛けても返ってくるのはシンっと静まり返った空気だけ。


 聞こえてなかったのだろうか?


 いつもはノックの音だけですぐに不機嫌そうな返事があるのだが……。


 訝しみながらもスターマンは再度ノックの音を響かせる。


「君主様?」


 こんどは割と大きなノックと声をかけたのだが……やはり返事はない。


「申し訳ございません、居られるはずなのですが……」

「執務に集中されていてお気づきになられていないのかもしれませんわ」


 困ったように眉尻を下げてスターマンは返事を待つ一同を見返す。

 その表情はいつもはこんなことはないのだがと返事が無いことに十分、困惑していることを示している。


「ストロング公は本当にこちらにおいでなのですか?」

「え、えぇ……赤の客間を出られてこちらの執務室へとお入りするところをお見かけいたしましたから、出る姿を見てはおりませんし……君主様?君主様、よろしいでしょうか?」


 御者の采配も出来ない、廊下と部屋を遮るただ一枚の扉も開かない執事に少しばかり苛立ったようにエルの語気が強くなるが、このディオスクーロイ城で働く全ての使用人の心得として扉を開くときはその部屋に居る主の返事があるまでは開いてはならないときつく言われている。


 スターマンは開かないのではなく慣習として開くという選択肢を持っていないのだ。


 再度スターマンがノック音を響かせるがやはり返事はなく、今までにない状況にえもしれぬ不安感を煽られる。


「最近は青の間をよくご利用されておりますのでそちらにいらっしゃるのかもしれません」

「鍵穴から光りが漏れておりますし……開けられて中のご確認されたほうが宜しいのではないのでしょうか?」

「ですが……この城では君主様のお返事があるまではけっして扉を開いてはならないときつく言われておりまして……」

「わたくし達が無理にお願いしたとお伝えいたしますわ。公が中で倒れておられたらそれこそ一大事ですもの」

「しかし……いえ、畏まりました」


 クリスティアに促されて渋りながらも、確かに倒れられていたら事だと意を決したスターマンは扉を開こうと取っ手を握る……が、回した取っ手はガチャガチャと音を立てて開かない。

 どうやら扉に鍵が掛かっているらしく、いつも鍵を掛けることはないというのに珍しいと思いながらスターマンは胸ポケットからこの城の全ての部屋の鍵の付いた束を取り出す。

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