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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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ディオスクーロイ城④

「まだ、時間がありますので部屋へと戻りましょう。花火の時間まで待っていたら凍えてしまいますので」


 いつまでも見ていたい景色だが、この寒さの中では精々10分15分が外に居られる限度だろう。


 アチェットに促されて中へと戻った一同は部屋の暖かさにホッと息を吐く。

 素晴らしい景色に夢中で気付かなかったが思いの外、その身は凍えていたらしい。


 祭りのスタートは日の入り過ぎた頃なので暖炉の上にあるアンティーク時計を見れば花火が上がるまではまだ30分ほど時間がある。

 各々ソファーに座り城へ来るまでの道中の景色や前庭の彫刻の素晴らしさの歓談を和やかにしていればノックの音が響き藍色のメイド服を着た一人の女性が入ってくる。


「失礼いたします君主様」


 茶色の髪をアップにした三十代半ばくらいの落ち着いた雰囲気の女性が水色の瞳を隠すように閉じるながらアチェットへと頭を垂れる。


「あぁ、レータ。すまないね。こちらの客人達のお相手をお願いしても構わないかな?」

「問題ございません君主様」

「ありがとう。彼女は赤の間を担当しているメイド頭のレータと申します。では、私は少し用事がありますので失礼させていただきます。なにかあったらレータに申しつけください。レータ、私は赤の執務室に居るから宜しく頼んだよ」

「はい、畏まりました」

「お心遣い感謝いたしますストロング公」


 足早に去って行くアチェットを見送ってすぐ、入れ替わるようにして年若い一人のメイドがサービスワゴンを押して入ってくる。


「失礼いたします」

「バルコニーに出られてお体が冷えているかと思いましたので紅茶をご用意させていただきました」


 確かに、体が芯に冷えていたので暖かい飲み物は嬉しくレータの配慮に皆感謝をし、香り高い紅茶を頂く。


「暖かいわ、それにとても美味しい紅茶ね。ありがとうレータ」

「勿体ないお言葉でございますお嬢様」

「あなたも、ありがとう」

「い、いいえそんな……ありがとうございます」


 新人なのだろう、編み込んだ黄色の髪を不安げに揺らし緊張した橙色の瞳で真剣にカップを見つめて震えながらサーブする可愛らしいメイドにクリスティアが微笑んで感謝を示せば頬を赤く染めて俯かれる。


「不慣れな者で申し訳ございません。祭りの時期には貴賓の方も少なく、新人を残すのが慣例となっておりまして……到らぬ点も多くあると思いますがどうぞご容赦ください」

「何事も最初に行うことには緊張を伴うものだわレータ。気にしないで」

「義姉さんの心はこの公国に降り積もっている雪より広く高いので、今のうちに沢山失敗することをおすすめしますよ」

「まぁ、エルったら」

「公が城に居る使用人達の人数を減らしていると言っていたけれど、まさか君達以外は誰もいないのか?」

「いいえ王太子殿下。今この城で業務をしておりますのは執事、メイド、厨房係を合わせまして五名ほどおります」

「その人数だけで祭りの間に滞在する客をもてなすのは大変だろう」

「祭りがあれど冬の公国に来られる方は少ないですので……現在、この城には四名ご滞在客がおありですが全て公国の人間でございます。公国外の皆様を合わせましたら滞在されているお客様は八名となりますので、五名で十分ご対応出来る人数でございます」


 過不足なく回る人数だとハキハキと満足そうに答えるレータの話し方はなんだか前世の教師を思い起こさせる。

 何処の世界にもこんな人がいるんだなとアリアドネはメイドらしくないレータの言動をぼんやりと学生時代に好きではなかった教師と重ね合わせる。


「あなたは執事のように全て把握しておりますのね」


 そのアリアドネがレータに感じたメイド感のなさをクリスティアも感じ取ったのか、何の気なしに放った一言にレータの肩がピクリと揺れる。


 使用人にも階級というものが存在し、メイドが上階級である執事の仕事をすることは通常ない。


 クリスティアは褒めたつもりで言葉に出したのだったがメイドを生業としている者からすれば侮辱と受け取る言葉だったかもしれないと表情硬く固まるレータにクリスティアは申し訳なさげに眉を下げる。


 きっと同じ事をルーシーに言えば同じ反応となるだろう。

 いや、もっと激しく否定するはずだ。

 クリスティアの侍女ということに誇りを持っている彼女に向かって執事のようだという言葉を投げかけるのはその矜持を傷つけること。


 レータに対しても同じことだと、思慮の足りなかった己の言葉にクリスティアは頭を下げる。


「あぁ、違うわ。批判しているのではないの。むしろ素晴らし手腕で感心したものだから……気分を害してしまったのならごめんなさい」

「いいえ、そんな!城に仕える者として役職など関係なく城のことは全て把握し、ご来賓される皆様のご期待に添えるべきだと常々思っておりますので……その執事などと恐れ多くて驚いてしまっただけです」

「そうなのね。所作が美しいのもその素晴らしい心がけの賜物ね」

「義姉さんのお眼鏡に叶うなんてあなたは余程優秀なんですね。どうです?公国から王国に来る予定とかはありませんか?」

「エルったら、こんな優秀な方を引き抜いてしまっては公に嫌われてしまうわ」

「義姉さん以外には嫌われても問題はないかと」

「光栄でございます。ですが私の仕える主はこの世でただ一人でございますので」


 気まずい雰囲気を取り繕うようにエルが公爵邸へのスカウトを半分本気半分冗談のような軽口で提示すればレータは丁重にお断りを告げる。

 優秀で忠誠心もあるレータはこの公国の君主に使える臣下として満点だろう。

 アチェットは君主として良い人材を周りに置いているのだと知れる。

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