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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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ディオスクーロイ城②

「さぁ、この城はラビュリントス王国の城より遙かに見劣りいたしますが、見える景色は王国に劣らず格別だとご期待してください」

「まぁ、ご謙遜を。馬車の窓から見た。雪山を背負い建つこの城の荘厳さにわたくし、胸が高鳴りましたわ」


 それはまるでディオスクーロイというこの白い土地に降臨した神の化身のような姿だったと、胸に手を当てその景色を見た感動を思い出すように笑んだクリスティアの満点な回答にアチェットは満足したように胸を張り、自分もそれが気に入っているのだというように頷く。


「気に入っていただけてなによりです。中の造りも変わっていて、この入り口を真ん中にして左右対称に同じ部屋が同じように左右で配列しています。初めて来られる方は大抵にして驚かれ迷われますので、どうぞお一人では出歩かないようにお願いいたします」


 入り口から左に進んで最初にある部屋が貴賓室、次いでサロン、娯楽室などがあり一番奥には食堂があるのだが、同じように入り口から左ではなく右に進むと貴賓室、サロン、娯楽室そして一番奥に食堂というように全く同じ部屋が同じ配列で左右に並んでいる。


 ディオスクーロイ城は外観もそうだが内装もシンメトリーであるらしい。


「ふふっ、確かに左右で同じ部屋が二つずつとは混乱いたしますわね。大変興味深いですわ」

「先代が……私の父がそのように改修しました。入り口から入って左が赤の間、右が青の間と便宜上呼んでいます。使用人達もこのスターマン以外は赤と青の間それぞれで人を雇っておりますので赤の間の使用人が青の間に行くことはなく逆も然りです。これは我が城の掟であり、破った者には速やかにこの城を去っていってもらっています」

「徹底しておりますのね」

「えぇ。祭りの時期は赤の間だけを使用して青の間は閉鎖しておりますので立ち入りの際はお間違えのないようにお気を付けください」

「なら青の間の使用人達は祭りの時期は全員お休みなんですか?なんだか狡いですね」

「ははっ、そういうわけではないんですよエル殿。城の掃除は一日でもしないと大変ですからね……とはいえこの時期は赤の間の使用人達の苦労が多いことは確かなので夏の休暇時には青の間のみを使うようにしています」

「城を明確に区切った理由はなにかあるのですか?」

「えぇ、ユーリ殿下……私は双子で生まれるはずだったのですが、その子は悲しいことに母と共に死産いたしました。城を子供達のために二つに分けることは母の望みでしたから父は亡き母を偲ぶため城を改修し、今の形としたのです。父の悲しみは大変深く、この城では双子の兄弟姉妹のどちらか一人を雇うことはありますが二人共を雇うということはありません」


 ユーリの問いにアチェットが先の君主を思い出すように瞼を細める。

 生まれるはずだった子と共に亡くなってしまった妻、残された先の君主のその深い悲しみは未来の幸せを語り合った頃の思い出を叶えることによって少しは慰められたのだろうか……。


 その悲しき心を思えば皆の胸は例外なく痛む。


「とはいえ完璧に区切られているわけではなく青と赤の間には地下で行き来の出来る秘密の通路や声が聞ける魔法道具があるんですよ、幼い頃はその魔法道具を使って使用人達の内緒話をこっそり聞いたりして……素知らぬ顔でその誰も知らないはずの内緒話を披露したりして皆を驚かせたものです」

「まぁまぁまぁまぁ、ではではその地下の通路にはもしかすると地下牢などもあったりしませんの?」

「こら!クリスティア!」


 暗くなった雰囲気を変えるように幼い頃の悪戯を白状するアチェットにキラキラと瞳を輝かせて、いまだ見ぬ憧れの地下牢がもしかすると存在するかもしれないと胸をときめかせるクリスティア。


 その期待を込めた輝かしき瞳に、夫婦の追憶と絆が込められた城だというのになぜそう配慮がないのかと……。

 そんな物騒な物の有無を宝物を探す子供のようなわくわくした気持ちで聞くんじゃないとユーリが窘める。


「ははっ、地下牢は流石にありませんよ。物書き机とベッドのある小さな部屋はありますけど。ではそろそろ花火の見える特等席へとご案内いたしましょう。普段はそれぞれの間の階段を使うせいかこの大階段は滅多と誰も使用しないので足元には十分注意をしてください、私の足を滑らせて不自由にした憎き宿敵ですので」

「まぁ、悪い階段ですこと。お仕置きに毛足の長いカーペットでも敷かれることをおすすめいたしますわ」

「それは良いアイディアですね」


(それで杖をついているのか)


 クリスティアの配慮のない探究心を屈託なく笑うアチェットの寛大さにユーリは安堵する。


 アチェットが杖を少しばかり持ち上げて自身の怪我の原因を示せば支えがなくなったことにより少しふらつくのでクリスティアがその腕を取り支える。

 前回合ったときよりなんだか気弱に見えるのはやはりその足の怪我が原因なのかもしれないなとユーリは思う。


「あぁ、申し訳ない」

「ふふっ、公のエスコートを受けられてとても感激ですわ」


 貴族の令嬢らしく、その身を支えたとは言わずに寄り添うクリスティアにアチェットは僅かばかり頭を下げて笑む。

 パートナーを失ったユーリは手持ち無沙汰になりながら一人階段へと歩みを進めれば、その行き先である二階から一組の男女が降りてくる。

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