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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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双子祭り④

「暗く悲しい過去は確かにありました。あの渓谷では今でも死した双子が片割れを探し求めて嘆いているとの噂もあるほどに……ディオスクーロイ公国で生きる私達はそれを忘れてはいけないのだと思います。もしよろしければ皆様も私達が忘れないように覚えておいてください。そして出来れば過去の出来事を忘れないためにもこちらのお店で追悼の人形の購入のご検討をお願いいたします。捧げなくてもお土産としてご購入される方も多いので」


 裏路地にあるショーウインドーに白銀色の髪の女の子と赤茶色の髪の男の子が手を繋いだ人形が飾られている一つの店の前でマーガレットが立ち止まる。

 オーニングの上に露店と同じ人形の絵と雑貨屋の文字が書かれた看板。

 あれ、なんだか話がおかしくなっていないか?と一同が思う中、躊躇いなく扉を開いたマーガレットは中へと入っていく。


「あら、マーガレットお帰りなさい。お客様?」


 案内されるままマーガレットに付いて店の中へと入れば奥にいた女性が縫い物をしていた手を止めて顔を上げる。

 薄い黄色の髪を頭上で一つに纏め、橙色の瞳を細めた女性は柔和な笑みを浮かべてマーガレットを見つめる。


「ようこそいらっしゃいました。安心安全信頼の私の母のお店、メアリー・アームの雑貨店です。皆様のお心を射止めるなにかが見付かるかと思いますのでどうぞご覧ください」


 カントリー調の可愛らしい内装のお店は人形をメインで販売しているらしく、様々な容姿の人形が数々飾られている。

 どうやらマーガレットの母親のお店らしく、人形達の間に少しではあるが装飾品や雑貨小物も並んでいる。


「あなたってばまたホテルのお客様を連れてきたの?いい加減にアメットに怒られてしまうからお止めなさいと言っているでしょう。娘がごめんなさいね皆さん、買わなくてもいいですからね」

「うぅっ、薄給なんです。ホテルのお給料だけでは母とアメットとの三人で暮らしていくのには辛くて」

「嘘おっしゃい。あなた達が働かなくてもお母さんの稼ぎだけで三人暮らしていけますよ。それにあなたのお給料がアメットより高いってお母さん知っているんですからね、お母さんがお城にお勤めしていたときより高いというのに」

「えへっ、でもここにある商品の品質は保証いたしますので見るだけみていってください」

「えぇ、とても可愛らしいわ。まぁ、ほら見てこちらは殿下に、こちらはエルにそっくり」


 メアリーに近寄りその腕に自分の腕を絡めたマーガレットは母の心配を誤魔化すように甘え満面の笑みを浮かべる。

 そんな娘の誤魔化しに呆れながらも、柔らかい笑みを崩さずに浮かべているメアリーは一同に謝罪する。


 母と娘の仲の良さに和み微笑んだクリスティアは気にしていないというように見ていた人形を持ち上げて銀色の髪で青い瞳の人形をユーリに、灰色の髪に黒い瞳の人形をエルに見せる。


「ふむ、確かに」

「こちらの人形は全て手作りなんですか?」

「えぇ、人形は私が全て作っております。公国に来られた方々をモチーフにしておりますので種類は一番多いかと思います」


 クリスティアから自分達に似た人形を受け取ったユーリとエルは店内を見回す。


 考えていることは二人とも同じだろう。


 金色の髪に赤い瞳の人形は何処だろうかと宝探しをするように左右からそれぞれ目を凝らすように見ていた二人より先に、アリアドネが声を上げる。


「これはクリスティーに似てるわね」

「まぁ、本当だわ」


 アリアドネが先に見付けてしまった金色の髪に赤い瞳の人形はそのままクリスティアへと渡される。

 人形を受け取り頭を撫でるクリスティアにユーリもエルもその人形をどうするつもりなのかとソワソワとした気持ちで凝視する。


「それはどうするんだ。自分で買うのか?」

「えぇ殿下、可愛らしいですし。こちらも良いですわね、ほらあなたに似てらしてよアリアドネさん。わたくしに似た人形と並べて双子でどうかしら?わたくし買って広場に捧げようかしら?」

「どう見ても双子には見えないでしょう。それに自分に似た人形をキャンプファイヤーにされるのは嫌よ。買うなら持って帰るし、あなたに買われるのはなんか別の用途で使われそうだから私に似た子は私が自分で買うわ」


 ニッコリとアリアドネに似た人形を手に持つクリスティアに、それをなにか怪しい呪術の道具に使われたらたまらないと慌てて回収する。

 極悪非道の悪役令嬢にその人形を藁人形に見立てられて丑三つ時に釘で打ち付けられたら掛けられた呪いを跳ね返せる気がしない。


「あら、残念だわ。広場に捧げるのが嫌でしたら持って帰ってお部屋に飾るつもりでしたのに……わたくしの人形一体だけ飾っても寂しいわ」

「僕のを並べても良いですよ義姉さん」

「そうねエル、それも良いわね。どうせならお父様とお母様に似たものも買いましょうか」


 それを家族が集まる部屋に置けば素敵だとアーサーとドリーに似た人形を探し始めた姉弟に、家族というくくりに入れず自分に似た人形を手に取ったまま自分は買おうかどうしようかと悩むユーリだったが、このまま置いていく気にはなれず……折角なので自分の弟妹に似た人形を探して一緒にお土産にしようと見回す。

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