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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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双子祭り②

「この地域はご覧の通りの豪雪地帯で昔から雪崩などの様々な災害に見舞われてきました。ですがそれがいつもと違い多いとき、なにか普段と違うことが起きたことが原因でそれが多く起きたと思ったとき、そういったときに人々は実体のない迷信に拠り所を求めるものです。この公国を守るように聳える山々があちらに見えると思いますが、あれがアメットがお話したカストール山とポリュデウケース山と呼ばれております霊山です」


 賑わう露店を見ながら大通りから一本裏通りへと入り、階段を上り高台へと辿り着く。


 ディオスクーロイ公国の街並みを見渡せるその高台からはレダの広場がよく見え、その先にホテルからも見えた白い山々が聳える。

 窓から見る山々も良かったがなんのフィルターもなく自身の眼で見る自然の造形はより一層の美しさがあり皆、圧倒される。


「あちらの二山の間には深い谷があり、そこに落ちた者の遺体は絶対に見付からないと言われております。物語というものは耳障り良く改変されるものです。このディオスクーロイの神と呼ばれているカストールとポリュデウケースはとても仲の良い双子の姉弟で、まるで恋人同士のように互いを愛しておりました。ですがそれは他の者達から見れば異様に見えたのでしょう。街の人々は二人の仲の良さを非難し引き裂き、カストールを別の街へと嫁がせてしまったそうです」

「なにそれ最低!」

「婚姻はとても不幸なものだったと言われております。ポリュデウケースと引き離されたカストールは一年と経たずに一人孤独に亡くなったそうです。そしてそれが不幸の始まりでした。一人残されたポリュデウケースはその死を嘆き、この地を呪いながらあの山の谷へと身を投げたのです。それからですディオスクーロイの凍てつく寒さが全てを覆い尽くしたのは。例年より多い吹雪に雪崩の事故、これはきっとポリュデウケースの呪いだと恐れた街の人々は二人を神と崇めて静まるように祈りを捧げる儀式を始めました。ですがどんな祈りにもポリュデウケースの怒りを鎮めることは出来なかったそうです。しかしある時、いつも通り儀式を執り行った帰りに参加していた双子の片割れが足を滑らせて谷に落ちたそうです。悲しい事故は次の儀式への躊躇いを生みました、ですがその年は吹雪くほどの豪雪はなく雪崩の被害もなかったそうです。街の人々は喜びそして同時に恐怖したそうです。もしかするとポリュデウケースは生け贄を望んでいるのかもしれない。カストールの変わりとなる双子の片割れを捧げなければ来年はもっと酷い不幸に見舞われるかもしれない。自分達が異常な判断をしようとしているという正常な認識は誰も出来ないくらい街の者達は疲れ切っていたのだと思います。一人を捧げ大勢を助けられるのならば、双子の片割れを捧げることでポリュデウケースの寂しさを埋められるのならば……自分達が二人を引き裂いてしまったという罪悪感も手伝っていたのでしょう。こうして生け贄の儀式は始まり……最初に捧げられたのは君主様の双子の片割れだったそうです。君主様に双子がお生まれにならなかったときは、街に生まれた双子達が生け贄となり続けました」


 ポリュデウケースが亡くなったこの時期にだけ雪が止むことがより一層、彼が生け贄を捧げることを望んでいるのだと……不幸な偶然は必然となり人々の心に罰として降り積もった。


 ポリュデウケースを死へと追いやった自分達の過ちが。


 最後に残した呪いの言葉が。


 人々を恐れさせ、生け贄という異常な状況への正当性を産み出していったのだ。

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