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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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双子祭り①

 翌日、アメットの言っていた通り昨日の雪が降る薄曇りの天候とは打って変わって信じられないくらいの快晴となったディオスクーロイ公国の街中で、持ってきた荷物の中では寒さに対応した服が乏しいのでクリスティアが貸してくれた襟周りに毛皮が付いて腰にベルトの巻かれた桜色の暖かいスワガーコートにアリアドネは身を包んでいる。

 隣のクリスティアは襟と袖と裾に毛皮の付いた薄紫のスワガーコート、ユーリは焦げ茶のポロコート、エルは灰色のブリティッシュウォームを着ている。


 皆、ディオスクーロイ公国の凍てつく寒さにフル装備である。


「ふわぁ……やっぱりお祭りとあって人が多いね」


 昨日、アリアドネは瞼を閉じようとするたびにユーリの高スチル笑顔を思い出してしまいにやけが止まらずすっかり寝不足だったのだが……。

 あちらこちらで露店の準備をする騒がしい声を聞いていれば眠たい気持ちよりもワクワクとした気持ちが勝って自然と気分が高揚していく。


「本格的なお祭りは夕方からです。花火が上がりそれが合図となってお祭りのスタートとなります」


 ホテルの制服の上に茶色のタイロッケンコートを羽織っている案内役を頼んだマーガレットが公国の街並みやこれから始まる双子祭りの説明をしてくれる。

 コートはホテルを出る前にアメットから外は寒いのだからと着させられていたのでアメットの物なのだろう、マーガレットの体より少し大きい。


 三角屋根の多い街並みには不思議と雪がそれほど積もっておらず、どうやら屋根や道路の石畳に雪を溶かす火の魔法道具が埋め込まれており、積もらないようにしているらしい。

 装飾された街灯や街路樹同士を線で繋いで飾り付けられた街は冬の凍てつきを忘れているかのようにこの祭りに存分に浮かれている。


「こちらが祭りのメイン会場であるレダの広場でございます」

「まぁ、大きな人形ですのね」


 マーガレットに案内されてまず辿り着いた街の中心にある広場。

 円形のその広場は赤褐色の石畳が敷かれ中央に男性と女性の十メートルはあるだろうか双子の大きな人形が向かい合い手を取り合って建っている。

 そして取り合った手の下には祭壇が設置されており、そこには溢れるほどの大小様々な人形が数多く置かれている。


「えぇ、クリスティー様。中央にある大きな人形がカストール神とポリュデウケース神をモチーフにした双子人形で、木を組んで造っております。その下にある小さい人形達は捧げ物として住民や観光客が置いています」


 丁度子供とその母親が祭壇へと近寄り祈るように両手を組み頭を下げると持っていた人形を置き去って行く。

 人形は近くの露店などで売っており、アリアドネも近くにあった人形の絵が書かれた露店へと近寄り並べられた一つの人形を手に取る。


「へぇ、これとか可愛い。買って供えたあとはどうなるんですか?」

「最終日の夜に火で燃やしますアリアドネ様」

「えっ?」


 てっきり代表者が持って帰るとか一年この広場に飾っておくとか……そんな想像をしていたアリアドネは人形が燃やされると知り、手に取ったその人形を元の場所へと戻す。

 人形だけれどもなんだか燃やすのは可哀想というか、持ったその人形がたまたまセミロングの黒髪で黒い瞳だったせいか前世の自分の姿を重ねてしまい、燃やされることに抵抗を覚える。


「月夜に浮かぶ炎は幻想的なのでしょうけれど、その中に自分に似た人形があるかもしれないと思うと燃やされてしまうことには少し抵抗がありますね」

「逆ですよエル様、自分に似た人形を身代わりとして一年の無病息災の祈りを神に捧げるのです」


 エルがなんとも言えない気持ちで人形達をじっと見つめてこの中に自分に似ている人形が無いことに少しばかり安堵する。

 一年の無病息災を祈ると言われてもそういう習慣のない外国の者からすれば、身代わりだとしても似た人形を火だるまにされるのはあまりいい気はしない。


「まぁ、元々この祭りは贖罪じゃったからな」


 露店の店主がそんな旅行者達の気持ちを汲み取ったのかパイプ煙草の煙をくゆらせながら苦笑いをする。


「贖罪ですか?でもアメットさんは神話だって……」

「そうですね、始まりといえば……ですけれど。アメットは美談のように双子神の話を語るところがありますので、実際は慰めのためでもあるんです」

「慰め、ですか?よろしければ内容をお聞きしてもよろしいかしら?」


 余計なことを言った露店主を睨みマーガレットが少し考えるようにして言葉を発する。


 アメットの話も事実は事実なのだがそれは観光客用に聞こえの良い物語に少し変えられた物語なので、ディオスクーロイ公国の暗い影である実際に伝わる話をすることに躊躇いがある。

 大抵において物語の中にある隠された真実というものは夢のない残酷な話であることが多い。

 しかしその真実にクリスティアが興味を持ってしまったので、誰か他の者から聞くよりかは自分が話した方がいいだろうとマーガレットは口を開く。


「昔この地域では生け贄の風習があったんです」

「生け贄とは……また楽しい話ではないな」

「はい、ユーリ様。生け贄というようにあまり……良い話ではないですよ?」

「えぇ、是非お伺いしたいわマーガレット」


 例えそれがディオスクーロイという土地に隠された忌まわしきことだとしても。

 いや、きっと忌まわしければ忌まわしいほどクリスティアの心は惹かれてしまうのだ。

 その中に隠されたであろう事件の匂いを感じ取って。


「お望みならクリスティー様。他の露店を眺めながらお話ししましょう」


 歩き出したマーガレットに続いて広場から大通りへと抜ける。

 露店は祭りの始まりを待ちきれないようにどんどんと開店していき、そこには人々が集まり賑やかしい。

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